
あそこには行くなよ?行くなよ?絶対行くなよ??
事実関係・疑問点の整理:パワハラ開始から復讐完遂まで
“実生活”のリンダ・リドル
●プレストン社の中堅社員
本作の主役リンダ・リドルは、コンサル企業プレストン社の戦略企画部に所属。その仕事ぶりから前CEOは生前『リンダを次の副社長にする』と口約束しており、彼女も昇進を待ち望んでいた。しかし、新CEOブラッドリーは親のした約束をあっさり反故にする。普通なら一気にブラッドリーにヘイトが溜まる流れなのだが、今回は違う。リンダは服装センスが微妙というだけでなく、デスクに食べかけのサンドイッチをつっこんだ上、顔にツナをつけたままブラッドリーに挨拶をしてしまうなど、開始数分で【残念な人物】であることが判明しているからだ。周囲がなんとなく彼女と距離を置いていることすら、妥当な反応と感じるのである。
●家族はスウィーティーだけ
作中でリンダは元夫と死別していることが明かされるが、それ以外に家族関係の描写はない。唯一、“同居人”としてインコのスウィーティーが登場しているのみである。インコと1枚のパンを両端から齧るところは一見ほっこりシーンなのだが、彼女の孤独が際立つ場面でもある。
“サバイバー”のリンダ・リドル
●無人島についてからが本番
出張先のタイへ向かうプライベートジェットが墜落後、無人島に流れ着いたリンダは、同じ島にブラッドリーも漂着しているのを見つけて救助する。ここからは、リンダがサバイバル術を駆使してどんどん生活を整えていくのに対し、ブラッドリーはオフィス外で『俺は上司だぞ』が通用することもなく、立場が逆転していく展開。足を怪我し放置されたブラッドリーの反復パンは、時間経過と彼のイライラがこれでもかと伝わる印象的なシーンだ。また、一人島を散策するリンダが、ナイフを“拾った”り、微妙に小綺麗になったりしていくのは、視聴中はスルーしがちだが振り返ると納得の表現である。
●リンダの素質
会社で完全に浮いている様子からして、リンダに共感性がないことは明らかである。また、元夫が飲酒運転で事故る可能性を理解した上で車のキーを渡したのは遠巻きの殺人だが、その秘密を抱えたまま普通の生活を送る図々しさがあった。さすがにズーリと船長を直接殺したことには罪悪感を覚え悪夢まで見ていたが、いのしし狩りで快感を覚えた残虐性と合わされば、なるべくしてなった殺人鬼とも言えるのだ。最終幕で、ブラッドリーに奪われることも見越して弾のないライフルで脅すあたりも、リンダの狡猾さが表れている。
●リンダがやりたかったこと
復讐島というタイトルではあるが、どう見ても単なる復讐譚ではない。リンダの言動からすると、彼女の目的は下記のように変遷したのではないだろうか。
序盤:無人島生活は楽しく、社長より優位に立てる快感もあるので、少しの間続けたい。
中盤:ペット的に社長を自分の支配下に置き、この楽しい二人の生活を可能な限り継続したい。
終盤:ズーリの殺害もバレた今、無人島暮らしは続けられないし、真実を知る社長を生かしてはおけない。サバイバル生活を終え、一人で戻るしかない。
●リンダのハッピーエンド?
ラスト、場面転換するとそこではリンダが笑顔でゴルフに興じている。一年前に奇跡の生還を果たし、今度は著書が映画化されるセレブリティの一人、と紹介されたリンダが『自分で自分を守って♡』と語って終幕となる。これは、果たして現実の出来事なのだろうか?指を突っ込まれたはずの右目も、剥がれたはずの頭皮も、何事もなかったかのようにここまでキレイになるだろうか?さらに言うと、リンダの横にいたスウィーティーは(どんなに短くても)数日~数週間は放置されていたはずだが、単独で生き延びていたということなのだろうか?可能性としては3つある。
①実際の出来事:ブラッドリーやズーリの死体を適切に始末、別荘も原状回復の上、実際にイカダで生還(どこかの地点までボートに乗った可能性はアリ)。その後脅威の回復力により目元も頭も綺麗に戻ったか、一部整形手術などによって戻し、エンディングの状態を迎える。
②一部リンダの理想:死体の始末~生還までは①と同じ流れだが、画面上に出ている美しいリンダは彼女の脳内を映像化しているだけで、実際にはケガを負ったまま。
③全部リンダの妄想:ブラッドリーを殺害後、リンダは別荘の持ち主に見つかるなどして救助されるが、殺人事件の犯人として表舞台からは姿を消す。しかし彼女の脳内ではセレブとして大成功しているエンディングの未来が見えている。
①も②も、スウィーティーは事故発覚後すぐに誰かに引き取られていたとすれば、一応辻褄は合うだろう。ラストの解釈をあえて曖昧にしているような気もするが、確定できる要素がないか繰り返し視聴して確かめてみたいところだ。
いろいろピックアップまとめ
細かい点も含め、注目ポイントを一気にまとめてみた。
●ラブロマンス展開の有無
結論から言うと、二人が結ばれることはなかった。最も象徴的なのは、『こんなに愛情を注いでくれたのは君だけだ』と言いつつ毒を盛ったブラッドリーが、『Fxxk you, Linda!』と中指を立ててウッキウキでイカダに乗り、直後の大波で沈没していくところだろう。ブラッドリーは作中で何度も改心したかのように振舞って、リンダを騙し、見ている側にも“さすがに心動いたか?”と思わせては、結局最後まで嫌な奴だった。その辺の駆け引きも、物語に引き込まれていく要素の一つだった。
●騙された、予想外ポイント
【オフィスではパワハラ被害者だった部下が無人島で無双して上司を見返す】というプロットに見せかけて、本作の大筋は全く異なる。端的に言えば、少々サイコパス気質だったリンダが無人島で本領発揮し、社会的成功を掴むという話だった。“予想と違う”となるポイントとしては、下記のあたりだろう。
◆パワハラ云々以前に、リンダには周囲から嫌われる要素があった
◆無人島と言いつつ、島の反対側には富豪の別荘があった
◆リンダはサバイバル術も持っていたが文明の力も借りていた
◆ズーリと船長を殺害して、リンダが無垢な主人公とは言えなくなった
◆パワハラ上司が改心する話ではなく、殺される話だった
◆不法侵入や殺人を犯した人間が幸せになる、疑問符付きハッピーエンドだった
●サム・ライミと言えば、コレ!
死霊もクモ男も出てこないが、ちょっとコミカルさを感じる独特のグロ表現は健在である。特にインパクトの強いシーンを列挙すると下記の通りである。
◆飛行機から飛び出て、悲惨な状況のドノヴァン
◆リンダvsイノシシにおける、森を這う死霊視点からの、血みどろバトル
◆ブラッドリーの大事な部分をチョン切ると見せかけてネズミを捌くドッキリシーン
◆リンダの悪夢に出てくる、もはやゾンビと化したズーリ
◆終盤のリンダvsブラッドリーが魅せる、首絞め、頭皮むしり、人体齧り、極めつけの眼窩ぶっさし
感想
劇場で何回か「ハハッ」と漏れてしまったくらいには、笑えるシーンがいくつかあり、シンプルに『面白かったー!』と感じる一作だった。オフィスで浮きまくっているリンダやツナに気を取られて話が入ってこないブラッドリーの描写から、これはだいぶブラックなコメディなのかとワクワクしたのだが、その期待を裏切ることなく終始ニヤニヤが止まらなかった。特に、ドノヴァンが飛行機から飛び出すもネクタイが引っかかってバインバインしてリンダがシェードを閉める、と言ったコント的展開や、リンダがオレンジ色の吐瀉物をゲボゲボしながら心肺蘇生するくだりは爆笑モノ。また、砂浜にブラッドリーが描いた文字が『HEPL』になっているなど、地味に笑えるシーンも多かった。
あらすじ時点では終始リンダを応援するようになると思っていたが、あれ?これ、ブラッドリーも別に悪くないんじゃ……いや、ダメだわコイツ……でもリンダ、それはアカンて、みたいな感情の行ったり来たりを経て、どっちもクソやんけ(笑)!!!となるのも、ドタバタ感があって良かった。
総じて、『思ってたんと違う』な部分と、『こういうのでいいんだよ』の部分がうまく融合して、予想の遥か上をいく傑作となった。一応、“スリラー”作品と位置付けているが、これはもう“サム・ライミ”というジャンルではないかと思う。
基本情報
【公開年】2026年
【監督】サム・ライミ
【キャスト】レイチェル・マクアダムス、ディラン・オブライエン、エディル・イスマイル、ゼイヴィア・サミュエル
【登場人物】リンダ・リドル(プレストン社社員)、ブラッドリー・プレストン(プレストン社CEO)、ズーリ(ブラッドリーの婚約者)、ドノヴァン(プレストン社社員)
【ポストクレジット】なし





コメント