【考察】映画『ゴーストランドの惨劇』|本当に姉は“過去の惨劇”に囚われているのか

【苦手トリガーチェック】
虫:なし、体内侵入:なし、身体損壊:あり、子ども被害:あり、動物被害:なし

●妄想どんでん返し
本作は「精神を病んだ人 x 実際の幽霊屋敷」モノかと思わせておいて、未来パートはすべて主人公の妄想(現実逃避)だった!というどんでん返しモノである。妄想と現実が入り混じる構成となっているため、特に初見では混乱が生じやすい。しかし、実際に起きたことを整理すると下記の流れであり、そこまで複雑ではない。

ベス、ヴェラ、ポリーンの3人は引っ越し後まもなく、2人組の暴漢に侵入される

ポリーンは刺され、首を切り裂かれ殺される

ヴェラへの暴行が続き、ベスはその間現実逃避している

ヴェラが限界をむかえ、ベスが暴行の対象となる

ようやく現実世界に戻って、受け入れるベス

ベスが乱暴されそうになり抵抗、隙をついて二人で脱出

運よく警官と出会うも、追いついた暴漢によって警官が射殺される

車で再び家へ連れ戻されて、二人とも絞殺されそうになる

一瞬、ベスはまた現実逃避するもののすぐに覚醒し、反撃

別の警官が到着して暴漢を射殺、二人は救出される

放置されたポリーンの死体の腐敗や、二人の成長が進んでいないことから見ても、本編の現実世界における経過時間は長くて数日間と思われる。

●妄想の中身
ベスの妄想は16年後、作家として成功している【理想の世界】を描いていた。しかし、そこでもヴェラは“過去に囚われ精神疾患を患って”おり、唯一救われていなかった。無意識に現実でのヴェラの姿が反映されていたのだろう。他にも、現実要素は妄想に作用していた。

<妄想世界での表現>
①ラジオ、ベスにインタビューするインタビュワー、黒犬、ピエロコスチュームの息子と夫
②電話で助けを求めるヴェラの声、鏡に描かれたHELP MEの文字
③ヴェラが見えない何かに襲われる
<現実での反映元>
①室内にあった絵画やポスター
②実際にベスに呼びかけるヴェラの声、ヴェラの書いた文字
③暴漢によって襲われている=都合よく暴漢だけが見えていない

最初のシークエンスで登場した少年の正体が最後まで不明だった。冒頭以外登場することはなく、本編中あの少年について語られることもなかった。ヴェラは“見えない物”が見えてしまうタイプというミスリードのための1コマかも知れないし、逆に、ヴェラは“現実”に敏感だが、ベスは妄想の世界に浸っている時には“現実”が見えない、というヒントだった可能性もある。

いずれにしても、本編のストーリーに関わる意味を持ったシークエンスというよりも、不穏な雰囲気を象徴するイメージショットのような位置付けに感じられた。

●サプライズは良かった
ベスが現実に引き戻される展開はとても巧みで、妄想世界にあった違和感が解消される爽快感さえあった。しかし、実は妄想でした!のネタばらし以降は、“描きたい展開”ありきで、腑に落ちないところも多い。

たとえば二人が家を脱出した時、周囲は真っ暗だったが、一晩中走り続け、警官に会った時には完全に太陽が昇り切っていた。それだけ長い時間逃げ回っていたのに、突然あの時あの場所で女装男に見つかるというのは、少々犯人側に都合が良すぎる。しかも、そこまで見通しの悪い地形でないにも関わらず、あんな目立つ格好の不審者が近づいていることに、撃たれるまでその場の誰も気付かない異様さ。そんな小さな引っかかりが、全体的な説得力を削いでしまった感がある。

●犯人がとにかく薄っぺらい
【手錠もないのに自力での逃亡を企てない】とか【大男を気絶させた時に殺しておかない】とか【警官に「近寄るな」と言い出す】とか、姉妹の行動にツッコミどころはある。それでも、「若い子が恐怖体験をしたらそこまで冷静でいられないよな」と思えば納得出来る。

しかし犯人については、そういった納得感がない。彼らの背景などは一切不明、行動からもビジュアルで強調された『異常者感』以上のものは伝わらず、5組の家族を殺してきた“シリアルキラー”の貫禄もない。彼らのパターン化された行動(ターゲット設定➡家に押し入る➡人形化し弄ぶ➡殺害)が、たまたま見つからない場所で繰り返されていただけで、基本無計画なのだろうとさえ思わせる。だから警官も射殺するし、わざわざ姉妹を家に連れ帰ってから絞め殺そうとしたのだろう。そもそも周到な犯人であれば、ド派手なキャンディートラックを移動手段に選ばない、という話である。

だから、ようやく警官が突入!助かった!というラストシーンも、「悪」という「役割」が消失しただけに感じられて、そこまでのカタストロフィーはなかった。本作は、心が壊れることによる現実と妄想の混交だとか、『物語』の持つ力などが主軸になっているというメタ的理由はあるかも知れないが、とにかく人間的厚みのない犯人だった。

暴漢2人は、実に不快指数が高かった。たとえば大男が足を持って持ち上げ、ベスたちの股間を嗅ぐ行為。しかも、初潮を迎えたベスの匂いは嫌がり、投げ捨てるというこだわりの描写。変態がやりそうではあるが、映像化されると嫌悪感が半端ない。犯人たちの風貌は似ていないが、あの2人は兄弟だった可能性もある。余程の理由が無ければ、わざわざ知能に問題を抱える大男と組んで犯罪を繰り返すと思えないのだ。もし兄弟なら、女装男は相当の弟思いだが、愛し方が歪んでいる。

最後まで犯人の過去や動機は明かされず、“暴力を描くための暴力的な犯人“としか思えなかった。下手にカリスマ性を持たせるよりはマシだったのかも知れないが、醜さのあまり視聴中ずっと眉間に皺が寄ってしまった。別に怖くもグロくもないのにとんでもなく不快という、異質なホラーである。

ヴェラは冒頭、小生意気で反抗的な少女かのように描かれていた。しかし、蓋を開ければ芯の強い妹想いの女の子だった。目の前で母親を殺され、妹は現実逃避し会話も出来ず、自分は現在進行形で暴力を振るわれ続ける。それでも諦めずに妹を呼び続け、”戻って“きた妹に「大嫌い」と言われても優しく抱きしめ受け止める。並大抵の精神力ではない。一般人ならビンタし返す場面だ。

日頃からベスの作品や振る舞いを全肯定し、最後は『逃げる』ように言い残した母と、常に現実を見据えるよう促し『逃げない』ように呼びかけ続けたヴェラの対比も印象的だった。母の亡霊と決別したベスが、今後は姉と共に、厳しい現実にも立ち向かっていけると信じたい。そしてヴェラには本当に幸せになって欲しいものである。

基本情報

【公開年】2018年
【監督】パスカル・ロジェ
【キャスト】クリスタル・リード、アナスタシア・フィリップス、ミレーヌ・ファルメール、エミリア・ジョーンズ、テイラー・ヒックソン
【登場人物】エリザベス・ケラー(作家)、ヴェラ(ベスの双子の姉)、ポリーン(双子の母親)
ポストクレジットなし

コメント