【考察】映画『マリグナント 狂暴な悪夢』|幻覚と連続殺人の不気味な関係

【苦手トリガーチェック】
虫:なし、体内侵入:なし、身体損壊:あり、子ども被害:なし、動物被害:なし

体はマディソン、頭はガブリエル
本編はデレクからマディソンへの暴行でスタートし、その後3人の博士の連続殺人事件とセリーナ・メイの誘拐へ発展する。そしてマディソン、妹のシドニーやケコア刑事たちの謎解きの結果、全ての事件の犯人は“ガブリエル”だったことが判明する。マディソン=エミリーと脳を共有しているガブリエルが、マディソンの意識を閉じ込め、体を乗っ取り実行していたのだ。マディソンの肉体ではあるが、彼が体を乗っ取っている最中はスパイダーマンもびっくりの超人と化すことで、残虐行為も留置所からの脱走もすべてが可能となっていた。

ガブリエルの出自
ガブリエルはエミリーの寄生性双生児だった。かつてのエミリーとガブリエルは完全に脳を共有しており、背中合わせで肉体も結合しているような状態だった。実母であるセリーナは、そんな二人を手に負えなくなりシミオン研究所病院へ託したのである。

結合性双生児と異なり、寄生性双生児は分離させないと一方が未発達になること、ガブリエルが凶暴化してエミリーから水分や養分を奪い始めたことなどから、施設は分離手術を決定する。その際、ウィーバー博士がガブリエルを指して『悪性腫瘍』と言うのだが、ガブリエルはそれをずっと根に持っていた。

●ガブリエルの嫉妬
分離手術後もマディソンはしばらくガブリエルの意識に悩まされていた。しかし、その様子はイマジナリーフレンドと会話でもしているかのように見えるため、マディソンの養父母たちは、ガブリエル=マディソンの空想上の存在であると勘違いしていた。そんなガブリエルは【妹が誕生するとマディソンの心が自分から離れ孤独になる】と恐れ、胎児の段階でシドニーを殺させようとした。しかし、マディソンの意識が勝って阻止された。シドニーは無事に誕生、ガブリエルはマディソンの意識の底に追いやられた。しかし、マディソンが妊娠するたびに栄養を吸い取り、ガブリエルは密かに生き続けた。そして、デレクによりマディソンが後頭部を強打されたことで目覚めたのだ。すごい執念である。

悪魔じゃなかった
マディソンは作中ガブリエルを指して【悪魔】と繰り返していたが、誕生の経緯やシミオンにおける扱われ方などを見ると、単に【悪意の強い子ども】だったらしい。しかし、電気系統を操る特殊能力を持ち、一般女性の驚異的な身体能力を引き出し、マディソンの頭蓋骨も頭皮もしっかり閉じる技は、さすがにチート過ぎる。悪魔でしたというオチの方が、むしろ説得力がある。また、セリーナがレイプされ妊娠した設定よりも【なんらかの経緯で悪魔の子を妊娠】という方が、逆に健全だったとも思える。

●ちょっかいをかけたので
終盤、セリーナの発見が決め手となってマディソンは容疑者となり警察に連れて行かれた。そこでは、先客のワルい女たちによって、マディソンが暴行を受ける。そしてガブリエルが覚醒し、ワルたちが返り討ちにあう展開となる。覚醒モーションから始まり、女たちをちぎって殴って吹っ飛ばして潰してのガブリエル無双ゴアアクションは最高潮の盛り上がりを見せた。その前にいかにも小悪党なウザ絡みを見せていたメンバーの粛清だったので、爽快なシーンでもあった。

●おあつらえ向き
それにしても、留置所は、まるでガブリエルのために用意された空間のような違和感があった。やたら広くて綺麗な空間、詰め込まれる容疑者たち、檻の付近には警官ゼロと、どうにも不自然だし管理不足に感じてしまった。とは言え、その後警官たちもフルボッコを食らっている。仮に厳戒態勢を敷いていても、軍隊レベルを配置しておかなければ惨事は防げなかっただろう。

◆デレク死亡後、意識不明だったマディソンは後頭部から激しく出血していたが、精密検査などはなかったのだろうか
◆セリーナの勤務シフトから、3博士の居場所、ひいてはケコア刑事のスマホ番号まで、ガブリエルの調査能力はネット特定班を上回る凄さだ
◆セリーナの監禁は家の屋根裏だった。さすがに全然気付かないマディソンは鈍感すぎだろう
◆シドニーは、明るいうちにシミオンの外観を視認していたが、到着したらとっぷり日が暮れていた。どれだけ遠回りしたのだろう
◆そして到着後は、かなりの崖際に車を止めていた。事件とか関係なく、見ている方がハラハラだ
◆シドニーは病院内で驚くほど簡単に目的の資料に辿り着いた。もはや特殊能力に近い
◆ガブリエル出現時はかなりの血みどろだが、一度頭蓋内に戻れば「枕にちょっと血痕が」程度で済むのはさすがに謎仕様だし、頭髪も無事なのはすごい原理だ

そもそも後頭部がパッカーンして奇形の双生児が飛び出るというトンチキ具合なので、細かいことを突っ込まずに楽しむのが正解ではあるのだろう。それにしても、視聴中からいろいろとツッコミポイントが溜まってしまい、素直に入り込めなかったのは残念だ。

真正面から見せてくれるゴアっぷりは期待に応えてくれるものだった。オープニングシークエンスから血まみれ、本編が始まったかと思ったら、DV夫デレクがさっさとボキボキの死体となる。じんわり怖がらせるタイプも好きだが、雰囲気もなにもないまま始まる惨劇もそれはそれで良かった。

マディソンがやたら血の繋がりにこだわっていたのは、ガブリエルという究極の血の繋がりの存在、そしてそれを記憶の彼方へ追いやった事実が影響していたのだろうか。ラスト、これからも愛し続けるわ、と抱き合う姉妹の絆は美しいが、誰も罰を受けない「ハッピーエンド」では死んだ人が報われなさ過ぎる。そもそもだが、物理的にマディソンの頭にはガブリエルが残っており、脅威がなくなったわけではない。マディソンが完全に無罪放免というのは少々無理がある。本編後に、入院や拘留など、なんらかの方法で監視下に置かれるべき存在だろう。ところで、脳内でガブリエルの意識をガラガラ閉めた扉の向こうに閉じ込める演出はSAWっぽさもあって良かった。

メタ的にも、ガブリエルが新たなホラーアイコンになってシリーズ化、というのも、あまりイメージが湧かない。ガブリエルの動機、マディソンとのニコイチ設定など、後付けで解消しないと新たな展開に繋げないポイントが多そうである。あともう一歩、何かが違えば大傑作になったような気がする一作だった。

基本情報

【公開年】2021年
【監督】ジェームズ・ワン
【キャスト】アナベル・ウォーリス、マディー・ハッソン、ジョージ・ヤング、マイコール・ブリアナ・ホワイト、ジェイク・アベル
【登場人物】マディソン・ミッチェル、シドニー・レイク:役者の卵/マディソンの妹、ケコア・ショウ(警官)、レジーナ・モス(警官)、デレク・ミッチェル(マディソンの夫)
ポストクレジットなし

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