【考察】映画『サンクスギビング』|感謝祭に始まった復讐の“晩餐”の結末とは

伝統行事に絡むオーソドックスホラーかと思いきや、テンポよく色んなパターンで殺人が起きていくスラッシャー映画である本作。深読みすると見えてくるブラックなメッセージと動機の謎をまとめていく。

●過去の惨事
冒頭に描かれるのは、1年前のライトマートでの騒動である。感謝祭という大イベントの日、特売品を求めて店に群がる人々が半ば暴徒と化し、店側でも抑えきれず、その混乱によって何人もの死者やけが人が出た。しかし騒動はあくまでも『事故』という扱いで、逮捕者も出なかったという。そこには、“なぜか”監視カメラの映像がなかったことも影響しているが、そんな雑な隠蔽がまかり通ってしまうのは、町におけるトーマスの政治・経済的影響力の大きさからくるものと推測できる。

●そして1年が経ち
本編の舞台となるのは、そこから1年後のプリマスである。例の事件によってライトマートは閉店を余儀なくされ……ることもなく、平常運転をしていた。さらに、去年の一件はあくまでも『事故』であることを強調して、今年の感謝祭でもセールを実施すると発表したのだ。それに対して、過去の事件で妻を失ったミッチを始め抗議をする人々もいるが、あくまでもそれは町民の一部である。大多数の町民たちにとってはすでに『過去の出来事』となっていた。

●晩餐スタート
しかし、ライトマートのCM撮影予定だった家が破壊され、不穏な空気が流れ始める。そして、犯人の『晩餐の準備が出来た』というSNS投稿を皮切りに、連続殺人事件が始まるのだ。ちょうどそのタイミングで新しい保安官代理が着任していたり、行方をくらませていたジェシカの元カレが町に戻っていたり、ジェシカの今カレが保安官に嘘の証言をしたりと、犯人候補がどんどん増えていく。しかし結局、最終的に辿り着いたのは、保安官エリックが犯人というオチだった。

ライトマート事件の“加害者”たち
連続殺人事件の被害者は、基本的に1年前のライトマート事件に関わった人間たちだ。経営者トーマスの家族に加えて、事件当時カートを押してアマンダにガツンガツンしていた七面鳥青年ライオネルや、同じくカートを押していたダイナー店員のオバちゃんなどである。ジェシカが防犯カメラのバックアップを提供したために、犯人であるエリックは彼らの情報にたどり着いた。助けを求めての行動が逆に犯人を手助けしていたという皮肉な構造だ。

●警備員マニー
マニーは1年前のあの日、同僚のダグを差し置きさっさと現場から立ち去ったライトマートの警備員である。逃げたのは職務怠慢だが、結局あの雪崩のような群衆を押し返す力はなかったはずなので、居ても居なくても店内の混乱は防げなかっただろう。もし彼がその場に残り、あの騒動を収める努力をしていたとしたら、エリックはそれで許していたのだろうか。唯一言えるのは、彼の飼い猫が助かった時に全視聴者がホッとしただろうということだけだ。

ハノーヴァー校の2人
ジェシカたちが身内特権で先に入店していることに気付き騒ぎ出した二人である。騒動のきっかけを作った張本人たちとも言えるが、単に身元が判明したから、というのが狙われた最大の理由に見える。チアリーダーに至っては、めった刺しされた上に、冷蔵庫で放置プレイされ、その後一瞬「助かるかも!」と期待させられたのちの死亡で、異常に惨かった。エロ担当は死ぬというホラー映画の流儀を感じるところだが、罪と罰のバランスの悪さにエリックの自分勝手さが表れている。

●シンプル復讐譚
保安官のエリックが殺人事件を犯した動機は、ライトマート”事故”によって交際相手のアマンダが殺されたから、というもの。騒動が風化し、誰も責任を取らないまま日常が訪れていることで、正義感が暴走したようにも見える。じゃあ仕方ないよね、と言える話ではないが、分かりやすい動機ではある。しかしよくよく考えると、”交際相手”という前提自体に怪しさが残るのだ。

ほんとうに不倫?
エリックの元妻は他界し、妻の死後アマンダに心を支えられ、好意を抱き、関係が発展したと語るエリック。殺害される時点でアマンダはミッチの妻なので、それが本当であれば二人は不倫関係にあったということになる。しかし、あの日ライトマートをアマンダが訪れたのは、ミッチに差し入れをするためだったし、大混乱の中で彼女が必死に捜したのはミッチだったし、なんなら一度もエリックの名は呼ばなかった。夫の前とは言え、愛する相手ならば、さすがにあの大騒動の中で多少なりとも気に掛けるのではないだろうか。本当に2人が両想いの不倫関係にあったのか、疑問が残る。

エコー写真
エリックが、アマンダとの関係を告白している間、見つめた先にはエコー写真があった。しかしそれがエリックとアマンダの子なのかは不明だ。明らかに“胎児”と分かる写真だったので、相当な週数と思われるが、生前アマンダのお腹が膨らんでいたようには見えなかった。アマンダがかつて流産した時のもの、エリックの亡き妻が妊娠していた時のものなど、様々な可能性はあるが、どれも断定できる要素はない。ここまでくると、エリックの動機がこの映画における一番のホラー要素と言えるかも知れない。

エリック再び?
ラストは、平和を取り戻したはずのジェシカを燃える体で捉えようとするエリック、という、夢の描写で終わる。もしこれが続編を示唆するなら、次のジョン・カーヴァーは誰だろうか。今回死体が回収されていないことからエリックの可能性は残っているが、そうなるとマイケル・マイヤーズ現象(ちょ、おま、いつ人間やめたんだよ!現象)が起きる。

とにかく人の襲われ方・死に方の種類が多くて、次はどんな手でくる!?という楽しさがあった。銃殺や首チョンパなどの定番(?)に加え、買い物カートで頭皮ベロンとか、ごみ箱で体真っ二つとか、トランポリンの下からめった刺しとか、オーブンで焼くとか、肉叩きで頭蓋粉砕とか、オリジナリティあるゴアも多く、ツッコミどころを抱えつつも見ごたえは十分。比較的スラッシャーは見てきた方がだが、あれだけの種類を1作品でこなしているのは目新しい。

SNSの使われ方が三者三様だったのも印象的だ。バズ目的で使う者(エヴァン)、リベンジ晩餐事件で恐怖を煽り、捜査をかく乱する者(エリック)、そしてスマホ生配信で真実を世に晒す者(ジェシカ)。それにしても、エヴァンが1年以上同じ内容の動画を擦り続けているのはどうなんだ。また、経営者と労働者の対比、お得を求めてブラックフライデーに集まる群衆が大事故で命まで失う皮肉も効いていたが、軽さが勝って説教臭さはほぼなかった。

個人的に、マッカーティーのようなキャラは嫌いじゃない。パーティーのシーンは若干存在意義が不明だったが、主人公サイドに武器まで提供してくれた。結局スキューバは安全装置が外せず銃を使えなかったオチも含めて、気に入っている。

基本情報

【公開年】2023年
【監督】イーライ・ロス
【キャスト】ネル・ヴェルラーク、アディソン・レイ、ジェイレン・トーマス・ブルックス、マイロ・マンハイム、パトリック・デンプシー、リック・ホフマン、ジーナ・ガーション
【登場人物】ジェシカ(大学生)、ギャビー(大学生/ジェシカの友人)、ボビー(大学生/ジェシカの彼氏)、ライアン(大学生/ジェシカの友人)、エリック(保安官)、トーマス(ライトマート経営者)、アマンダ(ミッチの妻)
ポストクレジットあり

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