【考察】映画『遊星からの物体X』|南極で発見された「生きもの」がもたらす恐怖

【苦手トリガーチェック】
虫:なし、体内侵入:あり、身体損壊:あり、子ども被害:なし、動物被害:あり

ここからネタバレがあります!未視聴の方はご注意ください!

●南極で疑心暗鬼
本作は、南極で冬眠していた宇宙生命体が、人間たちに次々「感染」してはその人物に「同化」していき、やがて見ているこちらも誰が人間なのか分からなくなっていく物語である。南極といういわば隔離された場所で、正体不明の生き物が人間に混ざってこちらを狙っているという設定そのものがホラーと言える。

●あえて曖昧に
制作側の意図としても、【未知の生物とのバトル】や、【何が起きて、どう対決するかの謎解き】といったSFパートに焦点をあてたものではなく、あくまでも隊員たちの心理を描くことに重点を置いていたようだ。そのため、宇宙生命体についても、隊員たちの「分析」や「推測」の範囲内でしか詳細が分からない上、結末すら曖昧に描かれている。それが長年、議論を呼び、興味を引き続けている要因でもあるだろう。

●どこから来た?
南極に墜落した宇宙船の中で、氷漬け状態で埋まっていた。ノルウェー観測隊が爆発を起こして温めたことで氷が解けて解放された。物体Xが、宇宙船に捕らえられていた側なのか、乗組員だったのかは不明。墜落の原因も不明。ノルウェー観測隊については、前日譚となる『遊星からの物体X ファーストコンタクト』でより詳しく描かれている。

●なにが出来る?
接触した生物を取り込んで、同化する能力を持つ。マックは、細胞単位で生存本能を持つ個体として活動が可能と推測。ブレアがコンピューターに試算させると「生体が社会に到達した場合、2万7千時間後には、全世界が同化される」という結果になった。つまり、3年で全世界の生き物が物体Xに置き換わる計算である。

●知性は?
犬状態でアウトポスト31へと到着した物体Xは、監視の目がなくなったところで周囲の犬を襲い始めるなど、慎重な行動を取っていた。また、物体Xと化したブレアがミニ宇宙船をこっそり地下で製造するなどしており、ある程度の知的生命体ではある。しかし、危機が迫ると後先考えずに襲い始めるなど、衝動性も見られた。

●目的は?
宇宙船での航行目的や、生物としての最終目的は明らかにならない。

●倒すには?
“凍死”することはなく、低温になっても仮死状態で生き延びることが可能。有効な手段として描かれるのは、焼却のみである。

●ブレアやパーマーはいつ感染したのか
二人とも、初期段階で静かに感染していたのは間違いないだろう。パーマーは、まだワンコがうろうろしていた頃、互いを監視する目が緩かった頃に感染したと推測する。また、ブレアは、ノルウェー観測隊の死体を解剖している時の感染が最も可能性が高い。後に『細胞一個あれば感染可能』と分析していたのが正しければ、あんな風に内臓を素手に近い状態で触りまくっていたら、感染ウェルカム状態だったはずだ。

●ラストで「感染」はあったのか
最も議論の的になっているポイントだが、これは監督があえて曖昧にしているため、どこまでいっても推測しか出来ない。その上であえて言うなら、マックはもとより、チャイルズも感染していなかった説を推したい。過酷な闘いで生き残った二人は、両者生身の人間でありながら、最後まで互いを信じきれない。そして極寒の中、常に心のどこかで相手を疑ったまま、静かに死を待つ。そんな終わり方の方が、作品の根底にある「人間不信」というテーマに沿うものだと感じるからだ。

乗っ取り擬態系宇宙生命体モノは、本作が初出ではない。しかし、本作の印象が強いのは、やはり描き方のオリジナリティが高かったからだろう。当然、そのオリジナリティの要素としてインパクトもりもりのクリーチャー造形もあるだろうが、それだけではない。孤立した空間で、未知の脅威に晒されて、誰が味方かさえも分からない……そんな極限状態に置かれた隊員たちのリアルな姿こそが一番の魅力だと感じる。怪しいヤツはさっさと隔離する、信じられないうちは縛り付ける、そういった合理的な判断だけでなく、パニクって武器を取りに行く、運命を悟り静かに自殺するなど、個人の人間性によって大きく異なる反応が、本作に説得力を持たせていた。一方で、顔と名前が一致した頃には、被害者となり、なんなら化け物と化しているなど、登場キャラクターの多さからくる人物描写の浅さは多少感じられた。

全体を通して、いわゆるコンティニュイティ・エラーも多く、そういう意味ではツッコミポイントはあるのだが、ストーリー上破綻したと感じる部分はなく、今の時代でも十分見ごたえがあるSFになっていると思う。

基本情報

【公開年】1982年
【監督】ジョン・カーペンター
【キャスト】カート・ラッセル、A・ウィルフォード・ブリムリー、ドナルド・モファット、リチャード・ダイサート、キース・デイヴィッド、デヴィッド・クレノン、チャールズ・ハラハン、ピーター・マローニー、ジョエル・ポリス、T・K・カーター、リチャード・メイサー、トーマス・G・ウェイツ
【登場人物】マクレディ/マック(操縦士)、ブレア(生物学者)、ギャリー(隊長)、コッパー(医師)、チャイルズ(機械技師)、パーマー(操縦士/機械技師)、ノリス(地球物理学者)、ベニングス(気象学者)、フュークス(ブレアの助手)、ノールス(調理担当)、クラーク(飼育担当)、ウィンドウズ(無線通信技師)
ポストクレジットなし

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