
【苦手トリガーチェック】
虫:なし、体内侵入:なし、身体損壊:あり、子ども被害:なし、動物被害:なし
事実関係・疑問点の整理
クラリスとレクターの“その後”
本作は、前作「羊たちの沈黙」ラストで逃走したハンニバル・レクターの尻尾を、クラリスが10年越しにようやく掴む、というのがメインのストーリーとなっている。そこに絡む、フィレンツェでの一件や、メイスンの陰謀も含めて整理していく。
●クラリスの窮地
麻薬密売人、イヴェルダ・ドラムゴ再逮捕に向けたFBI主導の作戦中、DEA(麻薬取締局)が暴走して派手な銃撃戦となり捜査官も複数死亡。クラリスはやむなく赤ん坊を抱いたイヴェルダを射殺する。その後クラリスは下記の流れで追い詰められていく。
◆マスコミは、クラリスに責任があるようにセンセーショナルに報道
◆司法省のポールは、過去にあしらわれた私怨や野心のためにクラリスを追い詰める
◆FBIは、組織的な摩擦を避けるべく、クラリスをスケープゴートにする
弱り切ったクラリスのもとに、レクターから香り付きの手紙が届く。その香りから、レクターの居場所がほぼ突き止められた。
●“フェル博士”の犯行
レクターは、フェル博士と名乗り、フィレンツェにあるカッポーニ図書館の学芸員候補として働いていた。前任の学芸員は失踪しているが、そこに関わっているかは明言されない。作中の、フィレンツェでのレクターの犯行は下記の通り。
◆地元警察のリナルド・パッツィが指紋採取用に雇ったスリの大腿動脈を切って殺害
◆リナルドの腸をばら撒きながら首を吊らせて殺害
ちなみに、宮殿で絞首刑となったリナルドの先祖として語られるフランチェスコ・デ・パッツィは実在の人物である。
●メイスン・ヴァージャーの企み
メイスンは、レクターの犯罪の被害者/生存者で、復讐する機会をずっと待っていた。
◆メイスンの過去
医者と患者として知り合ったレクターとプライベートで会い、渡された麻薬で判断力を失う➡鏡の破片で顔を削ぐよう指示され実行
※映画では四肢麻痺に至った経緯は描かれないが、レクターがなんらかの処置をしたと思われる
◆復讐の手順と結果
・莫大な懸賞金をかける➡リナルドが懸賞金目的で動く
・ポールを買収、偽の物証でクラリスを追い込む➡まんまとレクターをおびき寄せる
・食人イノシシを飼育しレクターを食わせようとする➡クラリスの妨害で失敗
コーデルは、レクターの『俺のせいってことにして、落としちゃいなよ』という悪魔の囁きに乗り、車椅子を前進させてメイスンをイノシシの群れに突き落とした。結果、メイスンは生きたままイノシシに食われて死亡する。
●最後の晩餐
メイスンの手下に撃たれ気絶したクラリスを、ポールの別荘へ運んだレクターは、晩餐の準備をする。クラリスの銃弾を抜く手術をして、ポールのロボトミーを実施。麻酔で朦朧とし続けながらも抵抗するクラリスに手錠を掛けられたレクターは、FBIの応援が迫っているのを察し、自らの手首を(おそらく)切断して逃げる。その後、レクターが飛行機の中で、持参した弁当に興味を示した少年に、脳みそソテーを味見させるところで終わる。
クラリスとレクターの関係
●レクターの影を感じ続けるクラリス
バッファロー・ビル事件以降、10年もの間、クラリスはずっとレクターの影を感じ、心理的に囚われ続けていた。しかし、トラウマを抉られた恐怖心こそあれど、殺人鬼を捕まえるという決意が第一にあった。愛情や、依存関係にあったものではない。
●クラリスへの執着が増したレクター
作中の描写から、明らかにクラリスへの執着が増したように見えるレクター。クラリスが窮地に陥ったと知ると、手紙を送り、自宅に押しかけ、電話で呼び出し、結果としてメイスンの手に落ちる。たまたま助かったが、その後もクラリスとの最後の儀式を優先し、手首を失う結果となる。
クラリスが孤立する度に接触を図るレクターの行動は『理解者として』クラリスを『救いたい』といった傲慢さや勘違いからきているように見える。一方、クラリスの決してブレない倫理観に惹かれていたのも事実。だからこそ、「愛しているならやめて」というセリフを拒んだ彼女を肯定したのだろう。
違和感いろいろ
リアリティが薄い、説得力に欠ける、と感じる部分が多かった。特に気になったのは下記の点だ。
●ゆるゆる捜査網
メンフィスの裁判所から逃亡したレクターは、素顔丸出しで自由に生活していた。10年経っているとは言えFBIの指名手配犯リストにある人物に対し、いくらなんでも捜査網がザル過ぎだろう。最後レクターは飛行機に乗っているが、本編の流れを経て、なお空港で捕らえられないのは、FBIの落ち度と言わざるを得ない。
●メイスンのイノシシ計画
資産家メイスンが散々金をばら撒いて実行してきた計画の締めが、『輩に誘拐させて適当な小屋に作ったイノシシトラップに放り込んで食わせる』というのは、違和感しかない。その小屋の警備はザル、仕掛け自体もアナログ、結果、自分は落下事故で餌食になる。人食いイノシシのショッキングシーンと、クラリスとレクターの再会を演出するために、『穴だらけの計画』を無理やりねじ込んだように見えた。
●晩餐までの流れ
そもそもクラリスと因縁があった上、買収されて彼女を意図的に陥れたポールは、レクターの玩具として適任だったのだろう。それにしても、晩餐を挟んだ各イベントのタイミングがかっちりハマり過ぎではないだろうか。あの日ポールが別荘に来ることは事前に把握できたとしても、拉致されることやクラリスに救出されることまでは予測していなかったはずだ。さすがにご都合展開に感じられた。
●手首の切断
最後までクラリスを守り自分の手首を切ったレクターと、決して自分の信念を曲げなかったクラリスとの対比構造を見せたかったのだろうか。しかしレクターは本来、ボールペンからパーツを盗んで隠し持って手錠を外せる方の男である。切羽詰まった状況とは言え、包丁しかない!手首を切り落とすしかない!というお粗末さは、キャラクター像に合致しない気がした。
感想
「羊たちの沈黙」のインパクトが凄過ぎただけに、キャストの交代や、トーンの変化が顕著に感じられて、どうしても「コレジャナイ」感を持ってしまう。本作ではレクターとクラリスの関係性に一歩踏み込んだ部分があるが、その点においても微妙だったし、前作との繋がりを一旦置いて見ても、レクターの行動に巧妙さが感じられず、物足りなかった。
脳みそディナーはかなり衝撃映像ではあるものの、「人食いハンニバル」に求めているのは、人食いのゴアシーンではなく、むしろ「え、待って、さっきの晩餐で美味しく頂いたテリーヌってもしかして……」という恐怖である。そもそもハンニバル・レクターに求めていたのは、前作で強調された高い知性と圧倒的洞察力、それらに裏打ちされた神秘性である。俗世に降りてきて、クラリスに執着するあまり敵に捕まる姿は、どうしても劣化に見えて残念だった。前日譚となる続編、『レッドドラゴン』の方が、そういう意味でのハンニバル像には近いものがあって好きだった。
前作『羊たちの沈黙』、続編『レッドドラゴン』のレビューはこちら☟


基本情報
【公開年】2001年
【監督】リドリー・スコット
【キャスト】アンソニー・ホプキンス、ジュリアン・ムーア、ゲイリー・オールドマン、レイ・リオッタ、フランキー・R・フェイソン
【登場人物】ハンニバル・レクター、クラリス・スターリング(FBI特別捜査官)、メイスン・ヴァージャー(富豪)、ポール・クレンドラー(司法省)、バーニー(元看護師)、レナルド・パッツィ(フィレンツェ警察捜査官)
【ポストクレジット】なし





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