「アナベル 死霊博物館」 (2019年)

ジャンル:ホラー、ミステリー
制作:ジェームズ・ワン、ピーター・サフラン
監督:ゲイリー・ドーベルマン
キャスト:マッケンナ・グレイス(ジュディ・ウォーレン:主人公/小学生)、マディソン・イズマン(メアリー・エレン:学生/ジュディのベビー・シッター)、ケイティ・サリフ(ダニエラ:学生/メアリーの友人)、パトリック・ウィルソン(エド・ウォーレン:悪魔研究家/ジュディの父、ベラ・ファーミガ(ロレイン・ウォーレン:透視能力者/ジュディの母、スティーヴ・クルター(ゴードン:神父)

超ざっくりあらすじ

ウォーレン夫妻の一人娘ジュディは、両親が外出したある晩をベビーシッターのメアリー、その友達のダニエラと過ごすことになった。平和に終わるはずだったその夜は、しかし、言いつけを破ったダニエラが「死霊博物館」とも言われる禁忌の部屋に入ったことで一変する。

ポストクレジット有無

なし

好き度

40/100(あまり好きではない)

ここを【見所】とする

本作の救いはメアリーの常識であるが、見所と言うならば、やはりジュディである。

母ロレインの血をがっつりと受け継いだジュディは、人知れず透視能力が開花していた。たとえば学校では創立者の神父の霊が、まるで実在の不審者かのようにはっきりくっきり見えたりしている。しかし能力を受け入れきったロレインとは異なり、まだ恐怖心もある上、誰にも打ち明けられずにいたようだ。両親は「英雄か?ペテン師か?」などとゴシップの種扱いされており、学校では「幽霊菌について教えろ」といったウザ絡みをされ、自身の悩みを打ち明けるに相応しい相手とタイミングがないのだろう。

そして、ある日突然ダニエラのせいでその事実と強制的に向き合わされることになったのが本作だ。ジュディは長年呪いの品々とひとつ屋根の下暮らしてきたので、その恐ろしさもルールを守ることの大切さも身をもって理解している。ダニエラに呪いの品の解説をしているシーンもあり、夫妻は日頃からジュディに調査内容をそれなりに話していると思われる。どんな曰くがある物で、どんな危険性があるのかを伝えた上で、自宅に保管しているに違いない。いや、自宅に置いておくからこそ、正しく恐れることが必要とも言える。

そうして蓄えていた知識と生まれ持った能力をフルに生かして、ダニエラのやらかしの尻拭いをすることとなるのだが、その活躍は目覚ましかった。心霊現象がスタートし始めた段階でまず状況整理のためにダニエラが何をしたのか冷静に確認、メアリーが発作を起こせば車にあるメアリーの吸入器をすぐ取りに向かい、憑依されたダニエラにもいち早く気付き、映写機での悪魔祓いという機転も利かせて、アナベル人形を元に戻すという最適な対処方法をすぐ周囲と共有して実行に移そうとする。 最後は、悪魔と直接対峙することとなるのだが、そこではロレインやエドの姿を彷彿とさせる勇敢さも見られた。想像してみて欲しい、自分が小学生だとして、両親不在の夜の家で、いかにもな造形の悪魔とキス寸前の距離まで近付かれて、あんな風に対抗出来るだろうか。ジュディはたくましくも、手に触れた十字架を悪魔に押し当てこんがりさせる。そして祈りを続け、年長者たちの手も借りて、なんとかアナベル人形を再び閉じ込めることに成功した。

夫妻が帰宅した際にメアリーは「全部話す」と釘を刺していたし、あの状況で隠し立ても無理だと思うので、この夜の出来事はすべてロレインたちに伝わったはずである。即ち、ジュディが引き継いだ力をもって悪と対峙し解決したことを把握したはずだ。きっとこれから先は、ロレインが正しく導いてくれるに違いない。そして今後はもうダニエラみたいなポンコツに振り回されることがないよう、祈るばかりである。

疑問・つっこみ・考察 ごった煮

①つっこみポイントしかない存在、ダニエラ
本作を観てダニエラにイライラしなかった寛大な人はこの世にいないだろう。それほど、彼女は類を見ないレベルの酷いキャラクターだった。

登場してすぐ、メアリー・エレンにしつこく絡んだかと思えば、ボブに対して「あんたに惚れてる」などと告げ口する。死霊博物館が関係ない時点でだいぶウザいのである。さすが、ウザ絡みアンソニーの姉。

その後も、人としてどうなんだという行動が続く。招かれてもいないのにウォーレン邸を訪れ、お古のローラースケート(自分は怪我をして一度しか使っていない)をプレゼントする。単に家人を外に出したいがための策略にも見えたが、まんまとジュディたちを表に出すと、勝手に家を漁り出す。引き出しを開けまくり、見つけた鍵で「入るな」と言われた部屋にも入る。そして、嘘みたいに色々触りまくる。仮にそれらが呪いの品物じゃなかったとしても、赤の他人の家に上がり込み、許可なく好き放題触るのは非常識だろう。嫌悪感が半端じゃない。

そして、「やらかすんだろうな~この馬鹿は」の期待を裏切らない流れで、『警告!絶対に開けるな』のワーニングをしっかり読んだ上で、アナベルのガラスケースを開く。正直この時点で、この馬鹿女がどうなろうと知ったこっちゃないわの心境に至っている。その後ジュディとの会話でダニエラは父親を亡くしたばかりという事実が明らかになるが、全く同情出来ないのである。

ここまででも十分イライラゲージは溜まったわけだが、この後も引き続き、エドの調査資料などを勝手に読み漁って1人で興奮したり、父親の霊との接触をしつこく試みたりと自己中を発揮し続ける。もうムカムカの限界で、「ダニエラは父親の事故死に責任を感じてるのよ」みたいなメアリーのセリフを聞いても、嘘だろ!と叫びそうになる。どこをどう見たら責任を感じた者の行動なのだろうか。父親が死んだ事実を免罪符に人の家を漁ってもいいわけではないし、彼女がしていたことは結局、自分可愛さの身勝手な振る舞いにしか見えない。

ロレインは今回の騒動について、あなたはまだ若いもの~と許したようだが、私がウォーレン家の人間なら許せる自信がない。弟アンソニーをとっちめた?だからなんだ、二度と我が家の敷居を跨ぐなと言いたいくらいだ。

②アナベルの悪魔
見事ケースから外に出ることに成功したアナベル人形。人形を媒体として悪魔が本領を発揮し始めると、一人の少女が現れる。『アナベル 死霊人形の誕生』で登場した、アナベル・マリンズという少女の霊である。死霊人形の誕生を観ずに死霊博物館を観ている人がどのくらいの割合でいるのか不明だが、仮にこの少女にピンと来なくとも、みちびかれた幽霊ということで違和感はないだろう。

その後、アナベル効果でバフがかかった他の「呪い」たちも大暴れするのだが、お化け屋敷的脅かし系のメンバーが多く、画面にちょっとコワい未来を映すとか、コインをポトポト落とすとか、そこまで致命的なものはないように見えた。やはり本当に恐れるべきはアナベル人形の悪魔だけのようである。

さて、そのアナベルの悪魔は今回、やたらジュディの魂を狙っていた。メアリーがロレインにかけた電話を代わりに受けて(というか、幻覚的な作用だろうが)アナベルにジュディの魂をあげるようリクエストしてみたりする。かたや、メアリーに対しては暴力的に排除しようとはしていたが、魂を狙っている風ではなかった。そして狙い続けたジュディをようやく押さえ込んだところで、シリーズ初の行動に出る。明らかに何かをジュディから吸い取ろうとするのだ。

これまで魂ちょうだい系のことを言っても、魂を吸いこむとか食べる的な描写は全くなく、憑依をしない場合はシンプルに相手を殺していたように思う。また憑依する場合には、ゲロを口移したりするのが恒例だ。となると、今回の悪魔は今までとはまた違う目的があったのだろうか。たとえば、本当にジュディの「魂」と称した霊的な力を吸収するといった目的が考えられる。肉体を欲しているのではなく、ロレインにも引けを取らないあの特異能力を自らの中に取り込んでパワーアップを図ったのかも知れない。

上述の点には疑問が残るものの、総じて悪魔たちの勢いが良く、全員が楽しそうに暴れまくる様子は見ていて微笑ましかった。

③死霊館ユニバースのおさらい
本作は、死霊館ユニバースの1作品、アナベルシリーズ第3弾として位置づけられている。実在する心霊研究家、ウォーレン夫妻が取り扱った実際の事件を元にしたとされる死霊館シリーズのスピンオフ的存在だ。

アナベルシリーズでは唯一ウォーレン夫妻が作中で登場しているものの、死霊館シリーズとはだいぶ毛色が異なるため、これを見て同じテンションで死霊館シリーズや同ユニバースの別作品を観ると驚くかも知れない。死霊館シリーズの方が正統派のオカルトホラーなので、しっとりと怖い映画が観たい場合にはおすすめである。

なおアナベルの誕生秘話を描いた作品、「アナベル 死霊人形の誕生」も単体ではなかなか面白い作品で、本編中にチラ映りした少女の正体も分かるので、気になる人はそちらも観て欲しい。

各作品の事件の時系列としては下表①、映画公開順では下表②の通り。

雑感

①ナイトミュージアムをアナベルでやる必要性
ジェームズ・ワン監督がこの作品をアナベル版ナイトミュージアムと評したらしく、公開当時もそんなキャッチフレーズで宣伝されていた。ご存じの方も多いかと思うが、映画『ナイトミュージアム』では、自然史博物館の展示品が夜な夜な動き出す設定をベースに、主人公の成長譚のようなストーリーが展開されていく。なので、ウォーレン邸の地下にある「死霊博物館」の呪いの保管品たちが動き出すよ、まるでナイトミュージアムだね、みたいなことが言いたいのは分かる。

しかし、ナイトミュージアム状態に至るまでの経緯が酷過ぎた上、呪いの品々が軽んじられている印象を受けてしまい、純粋に楽しめる心境になかった。それこそ、各々で1作品映画が作れるような「いわくつき」の品々も、あれではお化け屋敷のアイテムと同じ扱いである。

アナベル第1弾、第2弾についても賛否両論あるし、単体映画として死霊館本家ほどのインパクトはなかったかも知れないが、それでも前2作は一定の世界観を守って描かれていた。それが、第3弾で勢い重視お化け屋敷ホラーのようになっただけでなく、突然彗星のごとく現れたダニエラという新キャラによってひたすらイライラを溜めなくてはならない展開になってしまったのが、とても残念だ。

②見る目があったウォーレン夫妻
今回は流れ上ダニエラがウォーレン邸にやってきたが、ウォーレン夫妻が留守を預けたのはあくまでもメアリーである。そう考えると、彼らの見る目は確かだった。

メアリーは頼まれた仕事(ジュディの送迎、必要な食料の買い出し、ピザの注文など)を正しくこなすだけでなく、ジュディのためにバースデー用の蝋燭を調達したり、ジュディが絡まれていると助け船を出したり、怖い思いをしたジュディに最大限寄り添った慰めをしたり、思いやりを持って接していた。加えて、ボブがやってきても男子を家には上げられないときっぱり断ったり、ジュディの寝かし付けが終われば真面目に勉強を始めたり、『誰かが見ているから』ではなく、自分を律してモラルを持った行動が出来ることが証明されている。

唯一メアリーに足りなかったものを挙げるなら、ダニエラを絶対に家に上げないという強い意思だったと言える。ボブは「男を上げるのはNG」として追い返したが、ダニエラもウォーレン夫妻に招かれた人間ではないのは事実で、その観点から入るなと断ればよかったのだ。そうしたら、この映画も始まらなかったけどね。