
人類に必要なのは、近代武器ではなくサリィである
事実関係・疑問点の整理:コマンチ族とプレデター
ナルの成長譚感が強い一作
●300年以上前の物語
今回の舞台は1719年、アメリカにある大平原、グレートプレーンズ。主役は、インディアン民族であるコマンチ族の少女ナルである。ナルは、剥かれた蛇の皮や、緑の体液に大きな足跡など、些細な異変に誰よりも早く気付き『怪物』の存在を把握する。しかし、女性でありまだ若いナルの言葉に耳を傾ける者はおらず……というスタートである。
●コマンチ族の女性として
ナルは、薬の扱いに関しては一目置かれているが、本人は狩りの技術で周囲に認められたがっていた。集落では、女は家を守り男が狩りに出るのが一般的らしく、ナルが異質のようだ。男尊女卑というよりも、完全分業制のようなイメージである。だから、外に危険が迫ってるんだという話に誰も耳を貸さないのも、ナルが特別嫌われているからではなく、門外漢が口を出すな的な反応なのだろう。多分。
●ナルの実力とは
狩りに同行すると申し出たナルに対し、仲間の男は『飯炊きはいらん』と追い返そうとする場面があった。それでもタアベのお墨付きもあり共に森に向かうと、ナルの愛犬サリィがプヒを発見し、ナルが薬草を塗り応急処置をするなど活躍を見せた。また、狩りの腕前についても、日頃から地道に鍛錬に励んでおり、サクサクうさぎを仕留めるなど、全く使い物にならないレベルではないのだろう。それでも、タアベと比較すると霞んでしまう技量なのは素人目にも明らかだ。少なくとも登場時点のナルは、『戦えるヒーラー』くらいの立ち位置で狩りに出るのが妥当、くらいの戦闘力に見えた。
●気付けば族長になれちゃった
中盤、誰にも信じてもらえないため、ナルは単身でプレデターの捜索へ向かう。しかし最初の邂逅では後からきた男たちが先にプレデターの餌食になった上、ナルは最後の最後でビビッて逃亡していた。その後は白人の罠にかかり、サリィを危険に晒し、タアベに命懸けで救われるなど、いいとこナシの場面が続く。それでも、ラストは地の利を生かし、相手の武器も理解してこしらえた即席の罠でプレデターを追い詰めて勝利した。プレデターの頭を持ち帰ったことで一躍英雄となり、タアベの代わりにナルが部族長となって物語は終わる。
●だいたいタアベのおかげ
振り返ってみれば、サリィが大ピンチの時に助けたのも、馬に乗って一人でプレデターを翻弄したのも、ナルを逃がすため止めを刺されるまで抵抗し続けたのも、タアベだった。最後に首を取ったのはナルだが、彼女一人の功績ではない。タアベはもちろん、サリィや他の仲間たちの助けなくしてプレデター狩りは成功しなかった。ちなみに「血を流すなら殺せるさ」というダッチ的名言を残したのもタアベである。人望では、タアベの足元にも及ばなかったように見えたナルが部族長となり、今後どんな風に仲間をまとめていくのか、期待と不安が入り混じるところだ。
言ってみれば、ナルの活躍のための構成
●残念な白人たち
「ネイティブアメリカンを野蛮人と呼び、卑怯で性悪でプレデターに無残に殺されてもいい存在である白人たち」というキャラ付けによって、相対的に主役サイドを上げていたのが少々気になったところである。プレデターの戦い方や強さを示すモブ的存在であることは明らかだったが、彼らなりの信念みたいなものや人間性が全く描かれず、本当にただただ嫌な奴らだったので、恐怖感よりスカッとしてしまうのが先だった。
●タアベの退場
ナルを窮地に追い込み、急成長を促すためにタアベが退場させられた感が否めない。確かに、タアベが残っていたら、ナルが一人でプレデターを倒す展開には絶対にならないだろう。言ってみれば、オリジナルのプレデターで、シュワちゃんが隣にいるのにアンナが一人でジャングルハンターと戦う展開はありえないのと同じである。なので、もう宿命的にタアベはどこかの時点での退場が決まっていたとも言える。それでも、きちんと伏線を回収しながらナルが成長していく過程は、丁寧だし見事ではあった。
今回のプレデター:フェラル
●フェラルプレデター
装着しても下顎部分が露出するマスク、ほっそほそのドレッドヘア、縦長の顔と顎、離れ目具合など、これまでのプレデターと全くデザインが違う。時代の違いか、プレデターの種族による違いかは不明。
●原始的で野生的
リストシールド(扇のように広げて使う盾)、ネットボール(ネットランチャーより原始的なネット状武器)など、比較的簡素な武器を使用。時代の違いか種族の差か、個人の趣味かは不明。シリーズで初めて、熊=人間以外の大きな動物とのバトルを披露。罠にかかった状態のナルはスルーしており、最低限のプレデターマナーはある模様だが、蛇や狼などプレデターにとっては取るに足らないレベルの動物もサクサク殺しており、好戦的というか血の気の多い印象がある。
●スタミナ切れなのか
コマンチ族の男たちも白人たちも雑魚キャラのように殺していったが、対ナルの戦いではぐんと戦闘力が落ちる不思議展開。スタミナが切れたのかも知れないが、シールドの押し合いでナルと拮抗する程度の筋力レベルまで落ちる。いろいろな武器を使える場面もあったが使わず、そのまま謎のポンコツ化によって敗北していた。
感想
映画を観る前からナルの生存ENDは確信していたが、さすがに、仲間(ほぼ)全滅からのプレデターの大幅デバフからのナルだけ生き残りパターンは予想していなかった。フェラルはかなり独特な造形をしており、シリーズ中唯一見た目が好きじゃない個体ではあるのだが、その特殊性を生かし、死ぬ間際までもっとナルを圧倒して欲しかったところだ。
それにしても、『大自然の中、原始的な武器で戦う人間とプレデター』という設定からは想像も出来ないほど”魅せる”バトルが多く、全編を通して戦いのシーンは予想以上に面白かったと思う。コマンチ族の身体能力の高さよ!!タアベがやたらかっこ良かったので、退場は本当に残念だった。
とはいえ本作のMVPはぶっちぎりでサリィだ。指示には的確に従う、主を守るために能動的に動く、危険な目にあっても諦めない、勇敢で賢くてかわいい相棒だった。もしサリィが助かっていなければ、本作の評価は地の底まで落ちていたかも知れない。ナルが族長に昇格したので、サリィにもなにかご褒美があるといいね、美味しい肉とか、骨とか、なにか。
基本情報
【公開年】2022年
【監督】ダン・トラクテンバーグ
【キャスト】アンバー・ミッドサンダー、ダコタ・ビーバース、ミシェル・スラッシュ、ベネット・テイラー
【登場人物】ナル(コマンチ族)、タアベ(コマンチ族/ナルの兄)、アルカ(コマンチ族/ナルとタアベの母)、ラファエル・アドリーニ(イタリア人通訳)
【ポストクレジット】なし






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