
ヤミーってのは、その、つまり……内臓が?
【苦手トリガーチェック】
虫:なし、体内侵入:なし、身体損壊:あり、子ども被害:なし、動物被害:なし
事実関係・疑問点の整理
ダメダメなクローチェク病院が元凶
●病院から生まれたゾンビたち
本作は、病院でゾンビの“最初の一体”が生まれ、その後の対処を間違えたがために爆発的に感染が広まるというパニック映画である。そのプロットだけ見ると目新しいところはないが、設定や作品のトーンでなかなかユニークな仕上がりになっている。
●クローチェク病院
舞台となるのは、東欧にあるクローチェク病院だ。美容整形をメインとする病院で、医師のクローチェクが院長を務める。ゾンビ云々の前に、かなり杜撰な管理体制で、実態としては知名度だけが先行したダメ病院といった感がある。病院としてのアカンポイントは下記の通り。
◆立地・外観:そこそこ田舎にある古びた建物で、ネットの外観とは乖離がある模様
◆衛生管理:患者のみならず、医師も手術室で平気で飲食するくらいに行き届いていない
◆セキュリティ:部外者が職員のIDを入手し、薬物にアクセス出来る程度のザル管理
◆監視カメラ:存在はしているが、警備員などが見ている描写はない
これらのダメポイントは直接ゾンビ発生と関わる部分ではないが、感染拡大の要因になっていたとは言えるだろう。たとえば、もっと厳重な管理体制を敷いて、被験体を適切に管理し、警備員も適切に配置していたなら、ミカエルが最初のゾンビをうっかり解放することもなく、ここまでの大惨事までは至らなかったかも知れない。
●整形以外もいろいろ
ヤーニャは、クローチェク病院では「若い女性の中絶手術を無料で引き受けている」と慈善事業のごとく語っていた。しかしダニエルは、胎児由来の幹細胞治療(まだ実験段階)に利用するために中絶手術を請け負っている事実を暴露する。また、ミカエルが院長室で謎のホルマリン漬け生物などを大量に発見しており、幹細胞治療以外にもいろいろ怪しい実験をしていたことが伺える。作中に登場する爬虫類っぽいナニカについても、最後まで正体は分からないが、明らかに人為的に手を加えられた生き物であることは確かだ。
●Dr.クローチェク
クローチェク本人が語ったところによれば、「人類のために老化を止める手段を模索していた」らしい。その一環で、酵素を用いた薬を作り投与するという【特殊治療計画】を立ち上げた。是非はともかく、人類のためにという志が本当にあったのか、根っからの金の亡者だったのか、単にヤーニャの言いなりだったのか、本心は不明である。しかし、それなりの情熱がなければ、本業の傍らであれほどの実験を継続することは難しかっただろう。
●特殊治療計画の失敗
結局、【特殊治療計画】の【酵素を用いた薬】を勝手に投与された“被験者番号ゼロ”の女性はゾンビ化、拘束していたがミカエルがうっかり解放し、ゾンビウイルスが蔓延する。クローチェクは、シルビアを見て即座に感染していると断言し、ステージⅠであるとも告げる。複数の被験者を見たことがなければ判断がつかない内容に思えるが、そうなると“被験者番号ゼロ”と整合性がなくなる。今回の薬とは別に、過去にも似たような失態を犯していた、ということかも知れないが、そこは不明のままである。
伏線の効果
●回収される伏線たち
基本、終盤になって後付け的に出てくる設定などはない。ミカエルが血液恐怖症のうっかり屋さんであることや、ダニエルが身勝手なチャラ男であることは序盤からしっかりと描写されている。手作り爆弾の伏線などもしっかり回収していた。また、序盤からミカエルがプロポーズを考えていることも描かれており、それが最後の「指輪コロコロ」の悲哀レベルを上げていたのは言うまでもないだろう。
●謎のままの描写
オープニングで、清掃員が物音に気付いて焼却炉の扉を開ける➡燃やされた死体の手がガッと頭を掴むシーン。結局これがなんだったのかは分からない。また、作中の表現から、ミカエルが逃がしてしまった女=特殊治療計画の最初の被験者のはずだが、その場合燃やされていたのは誰なのか。ゼロ番が噛みついた被害者かも知れないが、不明である。ミカエルがゾンビを解放する前からゾンビの存在(且つ脱走できる環境)を見せるのは、マイナスに感じたところだ。
しっかり且つオモシロなグロ表現いろいろ
●ちゃんとした人食い
近年はゾンビ映画であっても直接的に人を食う表現が減ってきている。そんな中本作では、嘘くさ過ぎず、誇張し過ぎず、しかしおちゃめさも残しつつ、程よい血みどろ感でカニバっていた。本記事のアイキャッチ画像は作中の女ゾンビを表現しているのだが、そのゾンビは、上半身だけで廊下に鎮座し、はみ出た自分の内臓をむちゃむちゃ食べていた。シュールなシチュエーション、リアルな内臓表現、なのに、どこか面白い。口元は布で隠されていたが、患者の下腹部を貪る医師ゾンビもキャッチーだった。
●コミカルゴア
終盤でミカエルが下水道から外に出るためゾンビの腸をロープ代わりするシーンも、しっかり内臓なのだがギャグにしか見えない。直接的な映像はなかったが、患者の脂肪吸引中にアリソンが誤って機器に触れる➡吸い出された脂肪が患者に逆流➡人体破裂、という展開も良かった。
感想
クローチェク病院には、美を求める者たちが集っていた。しかし、ウイルス感染した人々は、見た目も醜悪な人肉を貪る怪物になる。その皮肉が根底にあるので、ゾンビになった悲壮感よりも滑稽さが際立つ。制作陣は美容整形に強烈な嫌悪感でも抱いているのか!?とさえ思った。
登場人物に関しては、誰一人、感情移入できる人間がいなかった。むしろ、絶対に誰にも感情移入させないぞ!という決意の元に作られた感すらある。有名芸能人の男シュルツは名前を変えてまでペニス増大手術を受ける➡男気を見せる➡睾丸喪失という、本作随一の体を張った下ネタコメディを披露。シルビアは「若く見せる」ことに拘るも、道中では道端でトイレを済ませる非常識ぶり。アリソンは、あえてミカエルの前で別の男(ダニエル)に抱き締められてみたり、あえて罵ってから母親に斧を突き立てたり、人の心とかないんか。チャラ男ダニエルはジャンキー自己中、ミカエルは全方位空回り男で、かと言って可愛げもない。応援したくなるキャラクター不在である。
だからこそ、全滅END~そして転がる指輪~というオチを面白おかしく受け入れることが出来た側面もある。ベルギー発ということで、真面目な社会派ゾンビ映画(?)ではないかと構えていたが、ブラックジョークの効いた愉快な一作で楽しめた。
基本情報
【公開年】2019年
【監督】ラース・ダモワゾー
【キャスト】マイケ・ネーヴィレ、バート・ホランダース、アニック・クリスティアンス、ベンジャミン・ラモン、クララ・クリーマンズ
【登場人物】アリソン(手術希望の女性)、ミカエル(アリソンの恋人)、シルビア(アリソンの母)、ダニエル(旅行代理店職員)、ヤーニャ(クローチェク病院勤務)
【ポストクレジット】なし






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