
ジャンル:ホラー
制作:トニー・デローザ=グランド、ピーター・サフラン、ロブ・コーワン
監督:ジェームズ・ワン
キャスト:ベラ・ファーミガ(ロレイン・ウォーレン:主人公/エドの妻・透視能力者)、パトリック・ウィルソン(エド・ウォーレン:主人公/ロレインの夫・悪魔研究家)、リリ・テイラー(キャロリン:ペロン家母)、ロン・リヴィングストン(ロジャー:ペロン家父)、シャンリー・カズウェル(アンドレア:ペロン家長女)、ヘイリー・マクファーランド(ナンシー:ペロン家二女)、ジョーイ・キング(クリスティーン:ペロン家三女)
超ざっくりあらすじ
1971年、田舎の大きな家へ越してきたペロン一家は、様々な怪奇現象に遭遇するようになる。次第に悪化していく状況に耐え兼ね、母キャロリンは有名な心霊現象研究家であるウォーレン夫妻に助けを求める。すぐさま調査を始めると、その家には恐ろしい秘密があることが判明した。
ポストクレジット有無
なし(エンドロール中に実際の写真が流れる)
好き度
90/100(大大好き)

ここを【見所】とする
何度見ても涙してしまうような、心に響く家族愛の描かれ方こそが本作の魅力だ。
大抵の親にとって、子どもに殺されることよりも、子どもを殺してしまうことの方が恐ろしいのではないだろうか。だからこそ、バスシーバのかけた呪いが、ただ「住人を殺す」のではなく、「住人の母親にまず子供を殺させる」呪いであることは、非常に残忍である。
キャロリンはロレインたちの助けもあって、バスシーバの呪いを打ち破った。玄関を出て、陽の光を浴びたことで解放を確信した彼女が、エイプリルに対し愛を伝える姿は涙なくして見られない。実はこの少し前、嘔吐して呪いを物理的に吐き出したキャロリンにエイプリルが「ママ」と呼び掛けているが、その時には、彼女は返事も出来ずに俯いて終わっていた。バスシーバに乗っ取られていたにしろ、自分が娘に恐ろしい思いをさせてしまった、自らの手で娘を殺そうとしたという事実に直面し、エイプリルを直視出来なかったのだと思う。それでも、最後はきちんと謝罪し、愛している(I love you so much!!)と正面から伝え、抱き締めることが出来た。そこにある恐怖も、後悔も、謝罪も、そして許しも、全ては家族愛から成り立っているのだ。家族愛があればなんでも出来る。家族愛があれば呪いにも勝てる。
ところで、オカルト系で母親が取り憑かれる対象の場合、大体父親はクソ野郎である(私調べ)。だがペロン一家は違った。ロジャーはかなりの良夫である。大きな家に大家族を住まわせるため長距離ドライバーの中でもキツい仕事を選んでこなし、妻の体に痣を見つければすぐに医者に行けと言い、最後の最後までキャロリンの身を第一に考えた発言をしていた。バスシーバが消え、再び家族全員で抱き合うことが出来た時、エドを見てしっかりと頷いたロジャー。きっと彼はこの先何があっても、家族をしっかりと支えていくことが出来るはずだ。妻の言うことを信じない、信じても軽視する、実際ことが起きたら役に立たない、そんなクソ野郎が溢れるオカルトホラー夫界において、ロジャーは希望の星なのだ。
疑問・つっこみ・考察 ごった煮
①【敵】の正体とは
ウォーレン夫妻の調査によって、ぺロン一家が越してきた家の過去が明らかになった。
1863年、農家のジェドソン・シャーマンが家を建てる
↓
ジェドソン、バスシーバという女と結婚する
↓
バスシーバ、出産する
↓
バスシーバ、生後7日目のわが子を生贄にしているのがジェドソンにバレる
↓
バスシーバ、庭の大木に登り、悪魔に忠誠を誓い、「土地を奪う者は呪う」と叫んで首を吊る
・死亡時刻3時7分
・バスシーバの親類にはセイラムの魔女裁判で公判中に死亡したメアリー・エスティがいた
↓
1930年代、ウォーカー夫人が家を買う
↓
ウォーカー夫人の息子ローリーが森で失踪、ウォーカー夫人は地下室で自殺
(実際にはウォーカー夫人が息子ローリーを殺害)
↓
家が敷地内にあった別の少年が池で溺死
近隣の家のメイドが自殺
結局、バスシーバと、彼女の呪いによって命を落とした過去の住人たちが、ペロン家の霊障の原因だったようだ。たとえば、オルゴールを通じてエイプリルと交信したり、かくれんぼの際にタンスから手を叩いたり、ジュディを「僕の隠れ家」へ呼んだのはローリーなのだろう。
ペロン家の面々に怪我を負わせるタイプの霊障(キャロリンの痣、愛犬セイディの件含む)や、ウォーレン夫妻への脅迫めいた現象、特に、ウォーレン家でジュディの身に起きたことなどは、バスシーバが直接力を及ぼしている可能性が高い。
バスシーバの悪行と比較するとローリーたちは実害が少なさそうではあるが、共存出来る気はしないので、しっかり成仏出来ていることを願う(成仏って概念はないかも知れないなぁと思いつつ)。
②家族構成の確認
ペロン一家の家族構成は下記の7人である。
父:ロジャー
母:キャロリン
長女:アンドレア
二女:ナンシー
三女:クリスティーン
四女:シンディ
五女:エイプリル
ほぼバスシーバに巣食われてしまったキャロリンは、わざわざ一家で移動した先のモーテルから娘二人を連れて自宅へ引き返す。そしてハサミでエイプリルを刺そうと追いかけ回す展開を迎えるのだが、何故連れ帰ったのがクリスティーンとエイプリルだったのか。単純に力の弱い順であれば、エイプリルとシンディを連れていったはずだ。
考えられる要素としては、クリスティーンとエイプリルの霊的な力の強さだろう。エイプリルは引っ越し当初からローリーと接触していたし、クリスティーンは毛布を取られたり足を引っ張られたり、直接のコンタクトが他の誰よりも早かった。霊的なことに敏感なのか、ロレインに似た力を持っているのかは不明だが、霊側からすると“近い”存在だったのかも知れない。
ところで、末っ子エイプリルは、あの騒動の最中にロレインがなくしたペンダントを回収してラストで返却するという重大な役目を果たした。ローリーと普通に友情を育んでみたり、その肝っ玉の大きさは家族で一番に見える。
③死霊館ユニバースのおさらい
本作は実在する心霊研究家、ウォーレン夫妻が取り扱った実際の事件を元にしたとされる死霊館シリーズの第一作目である。関連するシリーズはまとめて、一般に死霊館ユニバースと呼ばれている。
各作品の事件の時系列としては下表①、映画公開順では下表②の通りである。
まずは死霊館を見て、気に入れば死霊館シリーズを公開順に、その次に死霊館のシスターシリーズを公開順に見るのがおすすめだ。死霊館のシスター2作では、死霊館シリーズでも登場するヴァラクに関してたっぷりと描かれている。アナベルシリーズ第一弾、第二弾は直接ウォーレン夫妻に関係のない話となっており、第3弾はウォーレン一家こそ出演しているものの死霊館シリーズとは少々毛色が違っており、ライトなエンタメホラーになっている。さらっとアナベル人形の単純な出自を確認したい場合には、第2弾の「アナベル 死霊人形の誕生」のみでも問題ない。

雑感
①丁寧な仕事のオカルトホラー
ポンポン映像が切り替わって場面転換しテンポよく進んでいくタイプの作品とは対照的に、じっくりコトコト時間をかけて、少しずつ、でも確かに何かが起きていく……そうして、じっとりとした空気感が伝わってくる作りになっていた。止まる時計、娘じゃない誰かの気配、徐々に増えていく痣……そういった小さな出来事の積み重ねが、見ているこちらのイヤ~な気持ちを掻き立ててくれるのだ。
終盤、二女ナンシーが髪を引っ張られ振り回されるシーンや、椅子に括りつけられた母キャロリンが椅子ごと宙に浮き、ひっくり返って天井に突き刺さり、その後落下して椅子が破壊されるシーンがある。この辺りは少々エンタメ性が強くなっていると思うものの、壁や床に激突してナンシーの頭がぱっくり割れるとか、椅子ごと落ちたキャロリンの四肢が折れて骨が見えるとか、露骨なゴア表現は一切ない。私自身、ゴアもスプラッターも痛いもグロいも大好きいくらでも見たい派なのだが、本作で痛々しいシーンがほぼないことに残念さはなかったし、その必要性さえなかった。
この作品は、些細な違和感、不可解な出来事の連鎖、そして気付いた時には命の危機が……というオーソドックスな展開を、不快と紙一重の音楽と、時代設定に合わせたどこかノスタルジックな映像で描いた正統派ホラーなのである。
②悪魔じゃないけど悪魔祓い
「死霊館」というタイトルに、こちらを振り返る不気味な人形というキーヴィジュアル。そこには、悪魔!祓う!パワーーー!みたいなテンションはなく、むしろ和ホラーのようなジメジメ感が漂っている。ストーリーが進行していくと、いわゆる心霊現象が続き、どうやら昔の住人の霊らしいという考察が進んで、そうかこれは幽霊の話かと視聴者は方向性を定める。
しかし、バスシーバと思しき老婆姿の“何か”から黒いゲボを口移しされて以降、キャロリンは見るからに様子がおかしくなっていく。他人のゲボを飲み込んだのが嫌だったとか、幽霊が取り憑いたとかいうレベルを超えて、まるで違う生き物になっていくかのような変貌ぶりを見せる。そして、バスシーバは本懐を遂げるべく、キャロリンに刃物を持たせ、娘に向けさせる。そこでエドは、俺が悪魔祓いをする、と言い出す。幽霊相手だと思っていたが、悪魔?と一瞬面食らう。
そして本を片手に祈りを唱え始めるエド。エクソシスト物を見慣れている人にはお馴染みだが、彼も基本に則って、まずは相手の名前を確認する。名前を知ることで相手より有利に立ち、地獄へ送り返すことが出来るからだ。そしてエドに追い詰められたところで、キャロリンを包んでいた白い布が破ける。そこから現れたのは、キャロリンの面影をうっすらと残しただけの異形の顔だった。これは間違いない、悪魔だ。やっぱり悪魔祓いが必要なんだ。そんな説得力を持った顔面だった。
その後、エイプリルを追いかけまわしたバスシーバキャロリンは、エドに名前を呼ばれて一瞬固まる。ロジャーも継続して妻に呼び掛け、更にはロレインが海岸での家族の思い出を想起させてキャロリンの魂を呼び戻し、全員の力でバスシーバに打ち勝つ。これはどこまでがエクソシズムのお陰なのか、どこまでが神の力だったのかは分からないが、「悪魔祓い」という選択をしたウォーレン夫妻によって救われたことは間違いない。
ところで原題のThe Conjuringを直訳すると、“手品”や“心霊術”といった言葉になるのだが、それをほぼ無視しての「死霊館」という日本語タイトル。これがドンピシャしっくりくる、とは言い難いのだが、安直に「悪魔の●●」などと二番煎じ感モリモリのタイトルを付けられることがなくて、本当に良かったと思う。
③登場人物に無駄がない
ネームドの登場人物がそこまでいないこともあってか、仕事をしないキャラは一人もいない。また、ヘイトを集めるだけのムカつく野郎や、お前が元凶やろ!と言いたくなる戦犯キャラもいない。なので、とても穏やかな気持ちで経緯を見守ることが出来る。
愛犬の突然死はかなり残念な出来事ではあるが、だからと言って何かの呪いなのでは?と考えるのは無理がある。また、三女クリスティーンの毛布がはぎとられるのも、もともと夢遊病だったらしい四女シンディがタンスに頭をぶつけるのも、彼らにしてみればバラバラの出来事に過ぎない。いよいよ別の何かが家にいると確信した時にはかなり事態が悪化していたが、ペロン一家の行動には落ち度がない。ダメホラーにありがちな、おバカがバカをやって災難を招くようなストレスフルな展開ではないのだ。
また、お笑い要員止まりかと思われたブラッドが、なかなか骨のある活躍を見せてくれたのも良かった。意識を奪われたバスシーバキャロリンに対し体を張って立ち向かうも、まさかの反撃を食らって顔を噛みちぎられる。そこで退場かと思いきや、その後も暴れ続けるキャロリンを押さえつける役目を果たすし、突如発砲された銃からエドの身を守ったりもした。ラスト、「く~、いってぇな~」くらいのテンションでポーチに座るブラッドを見た時には、お前やるじゃねぇか!と画面のこちらで拍手喝采したほどだ。ドルーの軽口にちょっとイラッとしたもんね。


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