「死霊館 エンフィールド事件」 (2016年)

ジャンル:ホラー
制作:ピーター・サフラン、ロブ・コーワン
監督:ジェームズ・ワン
キャスト:ベラ・ファーミガ(ロレイン・ウォーレン:主人公/エドの妻・透視能力者)、パトリック・ウィルソン(エド・ウォーレン:主人公/ロレインの夫・悪魔研究家)、フランシス・オコナー(ペギー:ホジソン家母)、ローレン・エスポジート(マーガレット:ホジソン家長女)、マディソン・ウルフ(ジャネット:ホジソン家次女)、パトリック・マコーリー(ジョニー:ホジソン家長男)、ベンジャミン・ヘイ(ビリー:ホジソン家次男)、マリア・ドイル・ケネディ(ペギー・ノッティンガム:ホジソン一家の隣人)、サイモン・デラニー(ビック・ノッティンガム:ホジソン一家の隣人)、サイモン・マクバーニー(モリス・グロス:心霊現象研究協会調査委員)、フランカ・ポテンテ(アニタ・グレゴリー:超心理学者)

超ざっくりあらすじ

1977年、イギリス、エンフィールド。両親が離婚し、母と姉弟たちと暮らす少女ジャネットは、ある時を境に多くの怪奇現象に遭遇する。やがてそれは家族を巻き込み、命を脅かすまでに。立会人として事象の真偽を見極めにやってきたウォーレン夫妻をも欺こうとする、その相手とは。

ポストクレジット有無

なし(エンドロール中に実際の録音音声あり)

好き度

80/100(大好き)

ここを【見所】とする

エドとロレインの夫婦愛が次世代への希望となって締めくくられる、一連の美しさがあった。

ロレインは前年のアミティビル、および7年前のモリースのケースの霊視時、予知夢的に悪魔ヴァラクがエドを狙っているのを見てしまった。取り乱し、霊視後もずっと心に影を落とし、調査はしたくないとまで言わせる程だった。神の存在を信じ、常人より死後の世界が近い存在であるロレインにとっても、愛する者の死はそれだけ受け入れがたいということなのだろう。

しかし、結局、ウォーレン夫妻はエンフィールドを訪れた。それは「立会人の枠を出ないし、危なくなったら教会に任せる」という約束の元で向かった現場だった。しかし案の定、エドは悪魔が暴れる家の中へ突っ込んでいく展開になる。ただの嘘吐きである。しかし、ロレインはそんなウソを詰ることはしない。なんなら、そうなることを見越した上で妥協していた可能性すらある。飛び込んでいける優しさも勇気も、愛するエドの構成要素の一部なのだから。

そしてあの恐ろしい予知夢が今まさに現実に変わろうとしている最中、ロレインは単身でエドたちを助けに家の中へ入っていく。エドが首の皮一枚ならぬ、カーテンレール1個で命をつなぎ留めている現場へ乗り込んだが、そこには因縁の敵、ヴァラク。一般人ならあの怖い顔面だけで怯んでしまうところだが、ロレインは愛と信仰の力をもって立ち向かう。それどころか、吹っ飛ばされて壁に張り付いた状態で悪魔祓いをやってのける。これはもともとロレインに備わっていた霊的な力が強いことも手伝っているとは思うが、聖書を片手にたくさん祈りを唱えてやっとこさ悪魔祓いをしている巷の神父たちのことを考えると複雑である。が、とにかく、信仰心と夫婦の愛の力が、瞬く間に悪魔を地獄に送り返す瞬間だった。

そうして事件が一件落着したあと、エドは大事にしていた十字架のネックレスをジャネットに渡す。ジャネットはそれを喜んで受け取り、自分には二人も味方がいてラッキーだと笑顔を見せた。たったそれだけのシーンではあるが、そこには新たな未来の物語と大きな希望を感じた。

ジャネットはとんでもない恐怖体験をし、そのせいで居場所を失い、一時は絶望に満ちた表情だった。しかし事件後の彼女は、一回りも二回りも成長したように見えた。家族以外の信頼できる人間を得られたこと、そして自分の不思議な力と正しく向き合えたことが、新しい扉を開き次のステップへと進ませてくれたのだろう。

いずれジャネットがロレインとエドのように、悪霊や悪魔に苦しめられている誰かを救う日が来るのかも知れない。そしてそれが死霊館ユニバースの新たなシリーズとして描かれる日も……(期待)

疑問・つっこみ・考察 ごった煮

①少女、ねらわれがち
一度はジャネットの偽装工作をきっかけに調査を打ち切ったエドたちだったが、ビルが仕込んでいた録音の秘密に気付き、ビルやへそ曲がり男の背後にいる悪魔こそが今回の元凶だという答えに辿り着く。

では、なぜ悪魔はホジソン家を、ジャネットを狙ったのだろうか。作中では明言されていないため推測の域を出ないが、ジャネットが生まれ持った特別な力によるものと思われる。

ビルは当初、「家族に会いに来ただけ」のようだった。恐らくジャネットとマーガレットがウィジャボードを使ったために、降霊してしまったのだろう。そこから明らかな異変が起こるのだが、どう見てもジャネットとマーガレットに差がある。ジャネットだけがビルと「会話」をするなど、特別な力があることが示される。そしてそれがヴァラクの目に留まったのではないだろうか。

ところで、私調べでは、悪霊や悪魔が取り憑く相手は女性や子どもが多い。シャイニングやエクソシストなど男性が取り憑かれるケースが無いわけではないのだが、作品数では圧倒的に女性・子どもがターゲットとなることが多い。体脂肪率10%の屈強なムキムキ長身健康優良男性のアメフト選手が悪霊に取り憑かれちゃってもう大変!一体どーなっちゃうのー!?なんて映画を、私は知らない(あったら観たいので教えてください)。観客の同情を買い悲壮感をもたらす対象として女性・子どもがベターという判断なのだろうが、メタ的視点を排除しても、女性や子どもの方が霊的な力が強い傾向にありそう且つ肉体的にも霊側・悪魔側が苦しめやすい、という背景があるかも知れない。

②ヴァラクって、結局、誰?
本作のメインエネミーは悪魔ヴァラクである。ヴァラクとは一般的な解説だと悪魔学における悪魔の一体で、ソロモン72柱の序列62番、『悪魔の偽王国』では50番目に記載されており、27ないし30の軍団を率いる総裁と言われている。要するに、そこそこ強そう、という位置付けだ。

さて死霊館ユニバースにおけるヴァラクについてだが、実は死霊館のシスターシリーズでメインに描かれているので、そちらに触れずに語ることはなかなか難しい。未視聴の方もいるかも知れないので以降は伏字にする。

ヴァラクは神への叛逆の罰としてor堕天使と見なされて、神によって力を奪われた。そのヴァラクの力を宿したのが、かつて存在したルチアという少女だった。ルチアは信心深いキリスト教徒だったが、当時はキリスト教の迫害が行われていたため、密告によりルチアも拷問を受けることとなった(死霊館内では語られていないが、神に身を捧げると誓ったルチアが婚約者に対し結婚を拒絶、それに怒った婚約者が密告したというのが通説である)。しかし、ルチアは不思議な力に守られて屈することがなかった。そこで最後の拷問として目玉がえぐり出されたと言われている。そのルチアの目こそ、聖遺物として、「死霊館のシスター 呪いの秘密(以降、NUN2)」内でヴァラクが狙っていた物である。

NUN2でヴァラクは最後ルチアの目を手にするものの、そこに立ちはだかったシスターアイリーンによって倒される。シスターアイリーンは、聖ルチアの子孫で、彼女の力を受け継いでいた存在だったからだ。しかし、アイリーンはヴァラクとの戦いの時点で悪魔の名前を告げて地獄に送り返すという手順を踏まなかった。そのためヴァラクが完全にこの世から消えることはなく、モリースという男の体に入って時期を待つ。(死霊館および本作にて、ロレインが霊視し、ヴァラクのヴィジョンを見せていたあの男である)結局、モリースは自殺してしまい、ヴァラクは物質を持ってこの世に干渉する術を失ってしまった。恐らく、そこに来て、ちょうどよいターゲットだったのがジャネットなのではないだろうか。

ジャネットは両親の離婚や、吃音の弟のことで学校でイジられるなどして、心が疲弊している状態だった。一方で、ウィジャボードで呼び出したビル・ウィルキンスとの関わりから、一般人より(少なくともホジソン家の他の面々より)霊的な力が強かったと思われる。それはのちのロレインとのブランコでの会話などからも見て取れる。そうして狙いを定めたジャネットに嫌がらせを繰り返し、かと言って殺すことはせず、完全に肉体を乗っ取るべくじわじわと精神的に攻め立てていたのだ。

ラストはご存じの通り、ロレインの愛の一撃(とっとと地獄へ帰りやがれこの悪魔野郎、みたいな一言)であっさり地獄へと返されてしまう。その事実だけを見ると、ヴァラクって散々ヴィジョン見せてきたわりに戦闘力低くない?ショボくない?と思ってしまうのだが、NUN2では神父やシスタ7ーをバンバン殺害するなどしており、エンフィールド事件時点での力が弱まっていた可能性が高く、またそもそもロレインが強過ぎたという話である。ロレインの脅威を知っていたからこそ、ヴィジョンを見せていた可能性もある。

③死霊館ユニバースのおさらい
本作は実在する心霊研究家、ウォーレン夫妻が取り扱った実際の事件を元にしたとされる死霊館シリーズの第2弾である。関連するシリーズを全てまとめて、一般に死霊館ユニバースと呼ばれている。

各作品の事件の時系列としては下表①、映画公開順では下表②の通りである。

本作の敵である悪魔ヴァラクについて深堀りしたい場合には、是非死霊館のシスター2作品を見て欲しい。アナベルシリーズは、本作とは直接の関わりがないが、チラ見せされたアナベルちゃんが気になる!という場合には見て頂きたい。

雑感

①疑う者と、信じる者
怪奇現象を訴えるホジソン一家に対し、登場人物は必ずしも同じリアクションを取らない。中でも顕著なのは、超心理学者のアニカ・グレゴリーである。彼女はホジソン家での一連の出来事を子どもの作り話だとして、懐疑的な立場を取っているのだ。

作中のテレビでも放映されていたように、警官を含めた大人たちもそれなりの根拠を元に「超常現象である」と証言している。にも関わらずそれを総スルーして“ダウト”するのは、果たして本当に客観的判断なのかと言いたくなるが、とにかく彼女はホジソン一家が金儲けのために演技しているのだという。なんなら、最初のインタビュー時点からずっと疑いの目で見ている。

霊的な現象が起きて、当事者が困り、能力者が救済する。そのシンプルな展開に懐疑的な姿勢で介入してくる彼女のような存在は、映画だと鬱陶しいことこの上ない。しかし、現実世界で考えれば自然な流れである。言うなれば、センセーショナルな画像がインターネットで流れてきた時、すぐさま拡散するのではなく、一度立ち止まってフェイクでないかを確認するのが妥当であることと同じだ。

本作で秀逸なのは、悪魔側がそれも見越した策略を巡らせている点にある。邪魔なロレインたちを追い払うには「狂言である」と示せばいいと理解した上で、カメラの前でジャネットにポルターガイスト現象を捏造させる。見事その策が講じて一同は撤退する(その後戻ってくるが)。この展開はグレゴリーという存在なくしては成立しなかったはずだ。他のメンバーは皆、少女の言うことが真実だと証明するために集まっていたからだ。

一方、隣人であり友人であるノッティンガム家も大事な役割を担っている。彼らはグレゴリーとは正反対の存在で、「信じる者」として描かれている。

勝手にタンスが動いて部屋の扉を閉めるなど世にも恐ろしい現象に見舞われたホジソン一家は、総出で向かいのノッティンガム家へ駈け込む。その際ノッティンガム夫妻は、一家を当然のように受け入れるだけでなく、わざわざ夫のビックが家の様子を見に行き、更には警察まで呼んでくれていた。

ノッティンガム家はその後もずっと居場所を失った家族の受け入れ先となり、最後まで傍に寄り添い、劇中のセリフにある「常識を超えて信じる、世間が背を向けた今こそ」を体現している。ノッティンガム夫妻の存在がなければ、エドたちの登場を待たずして最悪な展開を迎えていたかも知れない。ヒーローポジションとして描かれているのはウォーレン夫妻であるが、最初から最後までホジソン一家を信じ、手を差し伸べたノッティンガム夫妻も、もう一組のヒーロー夫婦だと言えるだろう。終盤、ジャネットとエドを助けるべく地下室の扉の隙間から先に行ったロレインをビックが追おうとしたものの、彼のデカい腹がつっかえて通れないという描写があった。終始恐ろしい雰囲気と切迫感が漂う中で、そんな笑いのシーンも提供してくれるヒーロー。昔の戦隊モノならきっとイエローだったはずだ。

ところで、近所付き合い苦手マンの私には、ホジソン一家と同じ状況に陥っても飛び込める家などない。とりあえず、あらゆる悪魔の名前を頭に叩き込み、自力で太刀打ちできるように準備しておくしかない。

②融通利かない奴って、どこにでもいる
窓口ならいざ知らず、電話で役所に泣きついて状況が好転する、というケースを見たことがない。これは万国共通なようで、序盤、家賃が払いえない、電話をたらい回しにされている、養育費が3ヵ月も滞納されている、と電話の相手にガチ切れるペギーの姿がある。電話の内容は全て明かされていないが、ペギーの期待した支援が認められたようには見えない。しかしこのシークエンスで描かれるのは、役所側の問題ではなく、ペギーたちが置かれた経済的に厳しい状況と、彼女の立ち回りの悪さである。単身で働きながら4人の子供を育てるのは並大抵のことではなく、基本的にお金も気持ちも余裕がない状態というのがひしひしと伝わってくるのだ。

一方で、「お役所仕事」的な融通の利かなさは、ホジソン一家を救うための障壁にもなっている。そう、教会である。教会は本件の一報を受けて、まずウォーレン夫妻に調査を依頼する。バチカンが唯一認めている心霊研究家である二人だからこそ、彼らの調査には信頼が置けるということなのだろう。だが、ジャネットがポルターガイスト現象を工作したあの映像だけで、「教会は却下するだろう」とエドは言っていた。これはたとえロレインが霊視をし、エドがインタビューをして「悪魔憑きである」と結論付けたとて、ビデオ一本でその判断が覆される可能性が示唆されたということだ。

実際教会へ相談に来るケースでも詐欺目的の狂言も世の中には多くあるようだし、「騙す」意図はなくとも、精神疾患などが原因で悪魔憑きではないケースの方が多い。しかし、ウォーレン夫妻というフィルターを通すのであれば、そこから先は迅速に対処して欲しいと思ってしまう。