「死霊館のシスター」 (2018年)

ジャンル:ホラー
制作:ピーター・サフラン、ジェームズ・ワン
監督:コリン・ハーディ
キャスト:タイッサ・ファーミガ(アイリーン:主人公/シスター)、デミアン・ビチル(バーク:神父)、シャーロット・ホープ(ヴィクトリア:シスター)、リリ・ボーダン(マルタ:シスター)、ボニー・アーロンズ(ヴァラク)、イングリッド・ビス(オアナ:シスター)

超ざっくりあらすじ

1952年ルーマニア。シスター志願生アイリーンとバーク神父は、バチカンからの命を受けて、シスターが自殺したという聖カルタ修道院を訪れた。付近の村人たちさえも忌み嫌うその場所で、地元の青年フレンチーも巻き込み、やがて恐ろしい真実を目の当たりにすることとなる。

ポストクレジット有無

なし

好き度

50/100(普通)

ここを【見所】とする

本作は、非常に没入感のあるゴシックホラーである。

美しい自然に囲まれたルーマニアの人里離れた修道院は、かつて城だったこともあり、大きく、荘厳で、神秘的な閉鎖空間を演出する。そこへ修道女の自殺を契機に調査のため訪れるのも、神父と修道女(とおまけの一般人)であり、絵的にも世界観が維持されてストーリーが展開していく。ジャンプスケアが多用されてはいるが、終盤まではアクションシーンもほとんどなく、湿った空気が画面の向こうから匂ってきそうなジメジメ感が一貫して漂っていた。

結局オアナを含めた修道女は実際にはその場に存在しておらず、アイリーンたちがあの古びた巨大な建物で二人ボッチで一晩過ごしたと思うと、それ自体が恐怖である。来客用の部屋だってしばらく使われていなかったのだろうから床もベッドも埃だらけなこと請け合いだし、明るい時に見れば部屋にクモの巣もあったかも知れない。恐怖である。

オカルトホラーを見慣れている人にとってはある程度予測のつく演出や流れも多いため、退屈に映るかも知れない。だが、修道院という神のご加護がMAX値であろうエリアにおいて、祈りを捧げ続けられてもなお悪魔が消えることなく、むしろ周囲を静かに蝕んでいく様がとても自然に描かれていた。怖い雰囲気は味わいたいけど汚いのとかグロいのは苦手という人たちにも、うってつけな作品である。

疑問・つっこみ・考察 ごった煮

①ヴァラク、降臨!
劇中でシスター・オアナ(の霊)がアイリーンに語った修道院の過去をまとめると、下記の通りである。

暗黒時代に、カルタ公爵が聖カルタ城を建てた

カルタ公爵はオカルトにハマって悪魔を呼び出す魔術と儀式を繰り返した

悪魔を送る扉を開けることに成功、地面が割れて悪魔ヴァラクが出てきた

そこへ教会が踏み込み、カルタを殺し、聖遺物=キリストの血で扉を閉じヴァラクも閉じ込めた

教会はそのまま城を占拠して礼拝を始めた=聖カルタ修道院となった

それから何世紀かの間、ヴァラクは封印されていた

戦争で爆撃がありヴァラクが再び動き出した

ヴァラクが本作に於いて及ぼした影響を考えるとかなり強力な悪魔のようである。キリストの血という、神側からしたら伝家の宝刀であり最後の切り札でありマスターソードである聖遺物を消費してようやく封印することが可能、それでも放置は出来ずに、延々と祈り続けなければならなかった時点でなかなかである。その後たった一度の爆撃で封印が解かれ、修道院内はもちろんのこと、ビエルタン村の人々へも、まるで感染症のように呪いを広めていく。爆撃を受けた直後に再び教会側が総力を上げて封印に来ていれば、とも思わないでもないが、修道女たちには封印が解かれたことを知らせ、誰かに助けを求める余裕もなかったのかも知れない。

しかし、どんなに強い悪魔であっても、人間の世界において無制限に好き勝手出来るわけではない。修道院から外に出るには、人間の器が必要なのである。だから、取り憑かれることを物理的に回避するため、修道女たちは自ら死ぬことを選んだ。修道院での最初のシークエンスで『神はここで死す』の部屋に引きずり込まれたシスターは、果敢にも聖遺物でなんとか対処しようとしたが失敗してしまい、最後の生き残りであるシスター・ビクトリアも首を括る以外になかった。

では、アイリーンが見た修道女たちはなんだったのか。考えられるのは、①ヴァラクが”見せた”幻覚か霊、②アイリーンの持つ不思議な力で見た霊体の2パターンだが、私はその両方だと考える。たとえばシスター・オアナについては②のパターンでヴァラクの支配下にない霊体だったとする方が、彼女の行動に納得がいく。アイリーンとのコンタクトを咎めるように扉が開いたりする中で、修道院の過去を解説してくれた。そしてオアナの話した内容にアイリーンを罠にはめるような事柄もなく、純粋に協力していたからだ。一方、明らかにパターン①と思われる修道女もいた。アイリーンたちと最初に会話をして、まるで追い返すようなことを言っていたあの修道長である。本当に修道長だったのかすらも分からないが、ヴァラクの影響を受けていたことは間違いない。

さて、ヴァラクは修道女全滅後も器を求め続けており、そこにアイリーンという特別な力を持った女性が現れたため、彼女に狙いを定めたように見える。アイリーンが祈りの最中に逆さの五芒星(デビルスター)を刻まれたのも、その印なのだろう。しかしモリースの手によってキリストの血を擦り付けられたことでヴァラクはアイリーンの体から追い出されることとなり、仕返しなのかたまたまそこに居てちょうど良かったのか、最終的にモリースの体に留まることを選んだ。

一方バーク神父に対しては、精神的に追い詰めて憑依しよう、といった素振りはなかった。ダニエルという弱みに付け込むだけ付け込み、神父も延々と振り回されて終わっていた。不可解なのは、バーク神父を墓に埋めた点である。そこはただの墓ではなく、死体と一緒にヴァラクに繋がるヒントの書かれた本が埋葬されていた墓だ。棺の中に何があってもバーク神父が死んでしまえば関係ないと言えば関係ないが、それでも何故わざわざあの墓に生き埋めにする必要があったかが謎である。答えを推測するならば……十字架を見ればすぐさまクルッとひっくり返すことや、ひたすらシスターの姿で現れることなどを考慮すると、ヴァラクはキリストを冒涜することが大好きなようなので、自己紹介本を入れて嘲笑しつつ聖職者を惨たらしく殺したかったのかも知れない。

ちなみに死霊館ユニバースを一度離れて『ゴエティア』上で見ても、ヴァラクは序列62番の大総裁で30の軍団を率いるとある。72悪魔中の62番目なので序列は低そうに見えるが、30の軍団を率いているというのを見るとたしかに雑魚キャラではなさそうだ。何故カルタは召喚する対象としてヴァラクを選んだのだろうか。そもそも何故悪魔を召喚するような心持ちになったのだろうか。召喚したあとヴァラクをコントロールするつもりだったのか、ヴァラクに身を捧げるつもりだったのか、いずれにしてもはた迷惑な貴族だ。

②モリースとヴァラクの因縁
アイリーンたちがビエルタン村に到着したその日。モリースは、階段から血が滴る夢を見ながら起床した。さすがにこの時点での憑依はなさそうだが、何かしらの悪魔の影響を受けていたか、候補として考えられていた可能性を感じる。

それにしても、皆が嫌がる仕事(忌み嫌われた修道院への配達)をこなし、見つけた死体を丁寧に移動してあげて、調査を手伝い、何度もアイリーンを助け、人のために尽くしたモリースが、しつこくヴァラクの呪いを受けることになるのは理不尽さを感じるしいかにも悪魔的だ。

モリースと言えば、序盤の墓場でシスター姿の霊に翻弄された際、魔除けだと言って手近な十字架をもぎ取って抱えて行く。しかもそのまま酒場まで十字架を持って行く。ビビり倒している姿がとてもチャーミングだった。それでいて、現場では神父よりも大いに役に立って、何度もアイリーンの危機を救っている。ひょっとすると、ヴァラク的にはその辺りも癪に触って、モリースにしつこく取り憑くのかも知れない。

なお、モリースとヴァラクの関係は、本作ラストで示されたようにこの後も続いて行く。だが、死霊館のシスター2でもエンフィールド事件でも、ロレインが彼を霊視するに至るまでやその後について本編としては描かれていない。その意味でも、とにかく不憫な男だ。

③死霊館ユニバースのおさらい
本作は、死霊館ユニバースの1作品、死霊館のシスターシリーズ第1弾として位置づけられている。実在する心霊研究家、ウォーレン夫妻が取り扱った実際の事件を元にしたとされる死霊館シリーズのスピンオフ的存在だ。

死霊館のシスター2では、ヴァラクとアイリーンに隠された因縁も描かれている。気になる人は是非視聴して欲しい。

なおアナベルシリーズは、死霊館/ウォーレン夫妻と繋がりこそあるものの、こちらのシリーズとはほぼ無関係である。

各作品の事件の時系列としては下表①、映画公開順では下表②の通り。

雑感

①神父と修道女の味あるバディ
オカルトホラーもので、意外と神父・修道女のバディ物は少ないのではないだろうか。今回はその立場的関係だけでなく、二人のキャラクターがなかなかよかった。

バークはやり手エクソシスト風に登場したはずだったが、気付けばおちゃめポジションに収まっていた。振り返って考えると、墓に閉じ込められたり、ダニエルに夢中でアイリーンを放置したり、死体にビビッてモリースに助けられたりと、わりといいとこナシだ。唯一、白骨シスターの悪魔祓いを頑張っていたようだが、結局あれはヴァラク本体ではなかったし、もしかしたら聖水と十字架さえあればアイリーンでも同じように対処出来ていたかも知れない。それでも憎めないのは、滲み出る人の好さによるものだろうか。バークが自分の荷物を違うトラックに乗せて出発されてしまったシーンなどは、本作で数少ないほっこりシーンである。

それに対しアイリーンは、サウンドオブミュージックのマリアを彷彿とさせる、強く美しいシスターだ。結局本編中では、アイリーンが何故今回バーク神父の相棒として選ばれたのか明言はなかったが、仄めかされていたのは彼女の持つ霊的な力が理由のようだ。バークとアイリーンの会話の中で、アイリーンが、自身の見た幻覚について「教会に話が伝わり、コンロイ枢機卿の指示でフォーン司教が調査にきた」と言っている。その上で、フォーン司教が自分の恩人だとも語っている。馴染みのない人でも、キリスト教において教皇がそのトップであることはなんとなく分かるかも知れない。枢機卿というのは、役職的には教皇に次ぐ存在(教皇の補佐で最高顧問)だ。恐らくバチカン内でアイリーンの存在およびその特殊能力は把握・周知されており、それが今回の派遣にも繋がったのだろう。

結果として、アイリーンは主に強いメンタルと機転によってヴァラクに打ち勝った。キリストの血を口に含んでぶっかけるという大胆な発想で逆転勝利したのだ。残念ながら地獄に戻すことこそ出来なかったが、それはアイリーンの力不足ではなく、「悪魔の名前を呼んで地獄に送り返す」という悪魔祓いの基本手順を誰も教えていなかったからだ。ちなみに今回作中ではバークだけがヴァラクの名に辿り着いていたようだが、有効活用出来なかった。やはりおちゃめポジションだ。

②死霊館に頼らずとも
見所欄でも書いたように、本作は古き良きゴシック調のオカルトホラーとして立派に成立している作品である。だからこそ、ウォーレン夫妻に関するシークエンスが前後に配置されたのが勿体なく感じた。特に冒頭の回想は、死霊館を見ていない人はポカーンだっただろうし本編中特に意味のある物でもなく、なんなら記憶から抹消されているケースもあるかと思う。

なお、死霊館未視聴の人向けに簡単に説明すると、モリースに取り憑いたヴァラクは、本編後の時点でモリースを霊視する透視能力者ロレインに対して、彼女の夫エドが死んでしまうヴィジョンを見せて怖がらせる。また、講演会で上映している霊視の模様を真剣な表情で見ている女性は、1作目の死霊館に登場するメインキャラクターのキャロリン・ペロンだ。キャロリンに関してはヴァラクと無関係なので、いよいよフォーカスする理由が分からない。死霊館シリーズと結び付けたい思惑はあると思うが、本シリーズならではのカラーをもっと強く打ち出して欲しいところである。