【考察】映画『心と体』|産み落とされるのは抱え続けたストレス

【苦手トリガーチェック】
虫:なし、体内侵入:なし、身体損壊:あり(軽微)、子ども被害:なし、動物被害:なし

●腹部の秘密
ハンナの腹にあった母斑は彼女の強いストレスに反応し、膨らんで赤ん坊のような顔になり、やがて体外に出た。それは“アペンデージ”と呼ばれる存在だった。

・ホストが「自分で対処出来ない問題」に苦しんでいる場合、ある日突然生まれる
・アペンデージのホストはキメラ(二種類のDNAを持つ生物)である
・キメラになる背景としては、子宮内で双子が吸収されるケース=バニシングツインなど
・アペンデージは寄生虫と同じで、ホストを食い物にして生きる
・アペンデージは催眠をかけるスキルがあり、それによりホストの心と体を無防備にする
・両者は心も体もリンクしており、アペンデージが死ねばホストも死ぬ

●デュアルDNAの会
アペンデージの情報や、有料鎮静剤をハンナに提供してくれる親切な人たち……と思わせて、実は、各アペンデージがホストを乗っ取るための手助けをしている、アペンデージ集団だった。彼らは独自に研究を進め、ホスト以外からも“摂食”することで、ホストに頼らず生き延びる方法までも発見していた。なお、当初ホスト・ハンナが訪れた時は全員しっかり擬態➡終盤アペンテージ・ハンナになったと分かると目の擬態を解除しており、全員黒目がない状態だった。本編後彼らがどうなったかは不明。

●クラウディア・アペンデージ
デュアルDNAの会で知り合った女性クラウディアは、ハンナと意気投合して心の距離を縮めていく。しかしその正体は、クラウディアのアペンデージで、ハンナ・アペンデージがハンナに取って代わるための協力者だった。ホスト・クラウディアの、不妊と旦那の浮気という精神的ダメージを利用して成長、主導権を奪い、クラウディアに成りすまして暮らしていたのである。終盤では、ハンナによりホスト・クラウディアが解放されたことで、元の姿に戻っていく様子が描かれていた。

●ハンナ・アペンデージ
ハンナの母斑から誕生後、暴言を吐きまくってハンナをイラつかせ、地下倉庫に拘束される。しかし、クラウディア・アペンデージの策略もあり、ハンナに催眠をかけることに成功。その後、弱り切ったハンナに蛇のような舌を刺す謎の儀式で完全に“ハンナ”になると、逆にハンナを拘束。どんどん力を増し、職場でも成功していく。しかし、ホスト・ハンナがエスターによって救出され体力を取り戻すと、歯が抜けるなど不具合が出始める。たまらずケイリンを“摂食”しようとするも、間一髪ホスト・ハンナが阻止して、再び赤ん坊サイズに戻った。ラストシーンでは、ベビーベッドに横たわり、おしゃぶりを咥えて、すやすやと眠る姿があった。

●“アペンデージ”が表すもの
精神疾患、或いは、心の痛みの象徴と思われる。アペンデージが取る【ホストの痛みに付け込み心と体を徐々に奪っていく】という手法。それは、精神疾患によって心身ともに弱っていく流れとリンクする。当初ハンナは、鎮静剤で眠らせてどこかに隠す=薬で抑え込んで見ないふりをする、という対処をしていた。しかしラストでは、アペンデージを受け入れるという選択をした。それはハンナが、弱さや醜さも受け止め、自分を労わりながら生きていくと決めた、という意味なのだろう。

●職場のストレス
ハンナは、有名デザイナーであるクリスチャン・ウルマンの事務所で働いていた。クリスチャンはスターウォ●ズみたいな服装をしたパワハラクソ上司で、職場は常にピリピリしている。誰も楽しそうに見えない職場である。ハンナも、コレクションの対象に選ばれるorクビになるのかという緊張感を抱え、クリスチャンからメールが届くだけでストレスを感じていた。 同僚で親友のエスターだけが心の支えのような存在だった。

●親友だけど
しかしハンナの中で、エスターとケイリンがとても仲の良い友人であることが、実は不安の種にもなっていた。そして、“ちょっとモヤつく”程度だったその感覚を、アペンデージが言語化して指摘、さらに催眠もかけられて、二人の関係を完全に疑うようになってしまった。実際には、エスターがきっぱり否定している上、ハンナがいない場面でも怪しい行動はとっておらず、思い過ごしだったことがわかる。

●家族のストレス
ハンナが抱える一番の問題は、母ステイシーとの関係だろう。ハンナに対する接し方を見ると、ステイシー自身が何かしら精神的に問題を抱えていた可能性もある。謎のゲボを吐き、顔面蒼白で何かを訴えかけた娘に対し、『あんたといると辛いねん』と泣き言をいうのは、異様な光景だった。ステイシーの“無関心”がハンナに自己否定感を植え付けたのは間違いなさそうである。

●高校の時から変わらない
ハンナは長年、自己否定感を抱いていた。自殺を繰り返すことはなかったが、根底にはずっと“自分は無価値”という思考があったのだ。だからこそ、ちょっとした刺激(指に針が刺さったこと)で、抱え続けていたアペンデージが急成長することになった。

●内面の変化
本作の出来事を経て、アペンデージ=自分の弱さや醜い部分を受け入れたハンナは、ようやく一歩前進できた。ステイシーにきっぱりと自分の不満をぶつけることが出来たのである。ステイシーのリアクションからは彼女にどこまで伝わったか疑問が残るが、そこは重要ではない。ハンナが、自分の内に抱え込むのではなく、事実を受け止め、相手に伝えたという一連の流れに意味があるのだ。

ホラーに分類されてはいるが、内容としては自己受容をテーマにしたヒューマンドラマだった。この手の展開であれば最後ハンナは助かるんだろうという予想はあったが、アペンデージを消し去るとか殺して【乗り越える】のではなく、共に生きていく形で【受け入れる】選択をした展開には感動すら覚えた。また、シスターフッドという言葉がしっくりくるような、ハンナとエスターの関係性もよかった。

アペンデージの造形については、乳児スタイルのキモ不細工度合いがとても良い。成長した姿は少々キモさが増して一緒に暮らすの無理系だなと思ったが、乳児スタイルならギリギリ可愛がってあげられそうという印象。フィギュアというか、400円のガチャで販売して欲しいタイプのクリーチャーだ。

恐怖演出もゴアもなく、ホラー映画観たいな~の気分で見るとガッカリするだろうが、少なくとも、『心と体』という何も伝わらない邦題から受ける印象よりは格段に面白い作品だった。

基本情報

【公開年】2023年
【監督】アンナ・ズロコヴィッチ
【キャスト】ハードリー・ロビンソン、カウザー・モハメド、ブランドン・マイケル・スミス、デスミン・ボルヘス、エミリー・ハンプシャー、デボラ・レナード
【登場人物】ハンナ、エスター(ハンナの親友)、ケイリン(ハンナの恋人)、クリスチャン・ウルマン(デザイナー/ハンナの上司)、クラウディア(デュアルDNAの会の女性)、ステイシー(ハンナの母)
ポストクレジットなし

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